
事業を前に進めるための、具現化のチカラ
この記事は、2023年5月10日に「Assured Tech Blog」にて公開された記事の転載です。 こんにちは、Assured 事業部デザイナーの戸谷です。 事業推進において、プロダクト開発の次の一手をどうするか?を […]
こんにちは、スタンバイアプリ事業部 デザイナーの戸谷です。
私が携わっている「スタンバイ」は、日本最大級の求人検索エンジンです。日本中の求人サイトに掲載されている求人情報を一括して検索できるサービスとして、2015年の5月に開始しました。スタンバイでは、この春から UX デザインを事業成長に活用する試みに取り組んでいます。
その具体的な実践内容を、「リサーチ編」「ToBe 編」「検証編」「プロトタイピング編」の全4回にわけて、実例も交えながらご紹介します。今回は、ユーザーへのヒアリングを通じた、仕事探しにおける体験価値の抽出とモデリングを中心に、「リサーチ編」をお届けします。
「UX」という言葉がデザイナーに限らず、経営やマーケティングなど、様々な場面で使われるようになった昨今。「UX」あるいは「UX デザイン」という言葉が指す意味は、文脈やシチュエーションによって異なる解釈がされているように感じます。
例えば、この記事を読んでくださっているみなさまの周りでも、「UX って言ってるけどそれって UI の問題じゃない?」という話や「“体験”ってサービスの付加価値でしょ?」といった言説を耳にする機会があるでしょう。こうした、曖昧模糊とした状況は認識のミスマッチを生むだけでなく、下記のような記事にもあるように「UX デザイナーは信用ならない」という声にも繋がってしまいます。
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そんな状況のなかで、スタンバイでは UX デザインを、「サービスが提供する体験価値を明確にするための設計手法」と捉え、事業のオーナーやチームのエンジニアも巻き込みながら、現在進行形で実践しています。
個々の取り組みについて詳しくお話しする前に、全体像をご紹介しておきましょう。今回の取り組みは、下記のような流れで実践しています。
1. 既存のビジネス戦略・方向性の確認
2. ユーザー調査、体験価値の抽出
3. 体験価値、ユーザー像のモデリング
4. UX コンセプトの設定
5. 理想の UX の視覚化
6. 評価
7. 実装
まず、現状のスタンバイがどのような事業戦略で運営されているかを整理し、事業としてどのようなビジョンを成し遂げようとしているのかを整理します(1. 既存のビジネス戦略・方向性の確認)。
その後、人々が仕事探しをするなかで、どのようなことに価値を感じているのかを、ヒアリングをベースにまとめていきます(2. ユーザー調査、体験価値の抽出)。
そうしてまとまった体験価値をもとに UX コンセプトを導き出し、理想の UX を視覚化、ユーザーに評価をしてもらい、実装へと落とし込んでいきます(3. 体験価値、ユーザー像のモデリング、4. UX コンセプトの設定、5. 理想の UX の視覚化、6. 実装、7. 実装)。
今回の記事では、「1. 既存のビジネス戦略・方向性の確認」と「2. ユーザー調査、体験価値の抽出」についてお話しします。
スタンバイは、2015年の5月に正式ローンチして以降、現在に至るまでの間に色々な道を辿ってきました。
サービス開始当初は「日本最大級の求人検索エンジン」としてリリースしました。これは現在もサービスの根底にある核の部分で、700万件以上の求人情報を検索することができます。その後、スタンバイアプリは、リリースからおよそ1年経ったタイミングで「地図で仕事が探せるアプリ」としてリニューアルをします。それまでに行っていたユーザーインタビューなどで好評だった、地図機能を UI 上のメインに据えたリニューアルを行なったのです。そして、さらにその半年後、2017年の1月に企業から直接スカウトを受け取ることができる機能をリリースし、「仕事のお誘いが届くアプリ」へと進化を遂げました。
このように、大きな機能追加を繰り返すなかで、実際にどの機能がユーザーニーズを最も満たせているのか?そもそもユーザーが仕事探しにおいて課題に感じていることは何なのか?を、より明確に捉えることが事業にとっての次の課題であると考え始ました。確かに、どの機能もある一定のご支持をいただき、ご利用いただけていましたが、軸となる機能を固め、その先の未来を描けることが今後スタンバイを改善し続けていくための指針にもなると考えたのです。
かくして、スタンバイというサービスが本当に提供すべき体験価値は一体何なのか?を探るべく、UXデザインを活用する試みが始まりました。
私たちがはじめに行なったことは、世の中の人々が「仕事を探す」という行為のなかでどんなことに価値を感じているかをまとめることでした。
事業部のメンバーや他部署のデザイナーにも協力をしてもらい、アルバイト・パートを探した経験を身の回りの学生や主婦の方に聞き、ニーズやペインが潜んでいそうな出来事を洗い出していきました。
ある程度「出来事」が集まったら、それぞれから「体験価値」を抽出していく作業に移ります。出来事から体験価値を抽出するには「KA法」と呼ばれる手法を用います。例えば、下の図のように、まず定性的なユーザーの情報として実際の出来事を書き、その出来事からユーザーの本質的なニーズや体験価値を導出していきます。
ひとつの出来事からは複数の体験価値が抽出できます。例えば、上の出来事から別の体験価値を抽出するとこんな感じです。
ヒアリングを進めるなかで、仕事探しにおける出来事を聞くところまでは、スムーズにいくのですが、その人がその行動においてどのようなニーズやペインを抱いていて、どのような価値感をもって行動に及んでいるのか、本人にも顕在化していない部分を伺うことがはじめのうちは難しく感じました。
このように、実際の出来事をベースに体験価値を抽出したら、今度はそれらを分類して価値マップを作成します。人々が仕事探しを始めてから働き始めるまでの間、何に価値を感じ得るのかをひとつの流れとして体験価値の相関関係を考えながらまとめていきます。異なる出来事でも同じような体験価値が抽出できたり、異なる属性のユーザーだけど実は同じような体験価値があった、ということもあり、気づきが得られる場面でもあります。
例えば、上の図の例では、主婦の方も学生の方も異なる行動をしていますが、結果的に導き出される体験価値は「条件に合う給与の仕事が見つかる価値」と、共通したものになります。
このように共通した体験価値同士をより抽象的な体験価値に分類してまとめたのち、まとめたもの同士の相関関係を書き出して、価値マップは完成となります。
(体験価値のグループ同士の相関関係の例)
今回は、スタンバイの既存ユーザーに多い主婦、学生の計5名を対象にリサーチを行い、そのニーズ・ペインから36個の体験価値を抽出することができました。価値マップにまとめる作業を通じて、仕事探しという体験のなかには人によって多様な価値が存在する一方で、ある程度共通した価値もありそうだぞ、ということが見えてきました。
(実際に作成した価値マップ)
このあとの段階では、この価値マップをもとに、考え方の幹となる「UX コンセプト」を策定したり、そこから理想的なユーザーストーリーを考えたりします。今回のステップにあった実際にヒアリングした出来事をベースに作業をすることで、このあとの議論が机上のものにならずに、地に足のついた判断軸を作ることができるのです。
今回は導入部分についてお話ししました。次回は今回作成した価値マップをもとに、理想のプロダクトについて考えていきます。