Visional Designer Blog

デザインの品質を定量化する「コミュニケーションデザイン評価モデル」

株式会社ビズリーチにて、コミュニケーションデザイン部の部長を務めます三井です。

コミュニケーションデザイン部では、デザインの観点を定義し、デザイン品質を定量化する「コミュニケーション評価モデル」を運用しています。今回はコミュニケーション評価モデルを中心に、コミュニケーションデザインの品質担保のための仕組みを紹介します。

品質担保の仕組みづくりや、デザインレビューの観点を検討されているみなさまに、本記事が少しでもヒントになれば幸いです。

なお、本記事は2022年9月に開催されたオンラインイベント「あつまるデザナレ2022」で、発表した内容をもとにしています。当日の登壇資料は公開していますので、記事と合わせてぜひご覧ください。

評価モデルで、デザイン品質を定量化し、プロセスを改善する

株式会社ビズリーチで制作されたすべてのクリエイティブは、必ず「承認会」という会議で承認を受けて、社外に公開されます。

承認会でチェックする観点は明確に定義されており、各チームで行うレビュー会で品質を高めてから、承認会に提出するフローになっています。

「コミュニケーション評価モデル」は、この承認会の結果を通じてデザイン品質を定量化し、チームごとにプロセス改善を行う仕組みです。

事業成長の裏にあった「ブランド価値毀損のリスク」「デザイン品質の属人化」という課題

評価モデル策定の背景にあったのは、ブランド価値を毀損するリスクの顕在化です。

コミュニケーションデザイン部は、「ビズリーチ」や「HRMOS」シリーズなどの各サービス、採用などのコーポレート施策など、お客さまとの接点になるコミュニケーションすべてをデザインし、クリエイティブによる事業貢献とブランドづくりの両軸を担っています。

会社や事業が急成長を遂げ、チームが拡大していく反面、打ち出される施策のメッセージやトーンをコントロールする方針や仕組みがなく、コミュニケーションの一貫性を担保しづらくなっていました。

加えて、良し悪しを明文化しづらいデザインの性質もあり、クリエイティブの品質を担保する機能が私や一部のマネージャーに属人化していました。

こうした課題に対し、クリエイティブの当たり前品質を定義して、会社や事業におけるブランド価値の毀損リスクを抑制し、ブランドを維持する仕組みを作る必要があったのです。

公開までのプロセスから見る評価モデルの運用方法

どのように「コミュニケーションデザイン評価モデル」が機能しているか、実際の制作プロセスを踏まえて紹介します。

ビズリーチでは、クリエイティブを制作し公開に至るまで、大きく3つのステップがあります。

まずクリエイティブを制作する「デザインワーク」、次にチーム内でフィードバックをしあう「デザインレビュー」、最後に定義したデザイン品質を満たしているかをチェックする「承認会」です。

1. 「デザインワーク」はクリエイティブブリーフを活用

クリエイティブを制作するにあたって、「クリエイティブブリーフ」とよばれるコミュニケーションの設計図を活用しています。

クリエイティブブリーフの精度は、ユーザーの心を掴むアウトプットになるかや、施策の成果に直結するため、デザインワークに入る前にどれだけ精度を高められるかが非常に重要です。

広告のクオリティを上げるクリエイティブブリーフ / Visional Designer Blog

クリエイティブブリーフの代表的な項目

広告であればマーケター、採用に関わる施策であれば人事のように、施策担当者とデザイナーが協働してクリエイティブブリーフの精度を高めて制作に入るようにしています。

クリエイティブブリーフはスプレッドシートで管理しており、各項目は制作するクリエイティブやチームによってカスタマイズしています。ただし、何を目的に(Why)、いつ(When)、どこで(Where)、誰に(Who)、何を(What)、どう伝えるか(How)の5W1Hは網羅できる設計になっており、これらを制作時の指針としておけば手戻りも起きません。

2. レビューする意義や心得を定義した「レビュー会」

レビュー会は、毎日30分、各チームごとに、それぞれが制作したクリエイティブにフィードバックをしあう場です。コミュニケーション評価モデルができる以前から、私たちのチームにはレビューの文化が根付いていました。

一方で、長年継続しているからこそレビュー会にも課題はあり、メンバーからは「そもそも何のためにレビュー会をやっているのか」、「質の高いレビューをもらえなかった」などの声が上がっていました。

そこで、近年改めてメンバーにヒアリングをして、レビュー会のありかたを再定義しました。

みんなで一つの目的のために集まり、広い視野で様々な角度からレビューすることで、人々の心を掴むアウトプットにつながるというステートメント。そして、レビュー会に臨む際の心得をつくりました。レビュー会の冒頭に、必ずこの心得に目を通すようにしています。

3. 「承認会」で、3つのカテゴリ、37の項目でデザイン品質をチェック

レビュー会を経てブラッシュアップしたクリエイティブを、最終確認するのが「承認会」です。

承認会は週に3回行っており、部長の私と、各チームのマネージャー、アートディレクターが、定義した審査基準をもとにクリエイティブを審査します。

承認会の前に、デザイナーは専用のSlackチャンネルに、施策の目的、クリエイティブブリーフ、実際のクリエイティブなどを共有するルールです。

審査基準は「ブランド維持」「ユーザーゴール達成」「ビジュアルデザイン」の3つのカテゴリで構成されており、すべての基準を満たしてはじめて公開できます。承認会で指摘を受けた場合は、修正してオンラインで承認を受けるフローになっています。

承認会のチェック項目は全部で37項目。論理的かつ直感的に優れたデザインかのような見た目の観点はもちろん、世の中の倫理観や道徳的観点が考慮されているか、事業や施策の目的に対しユーザーを動かすアイデアになっているかの観点でもチェックしています。

これらの項目は約2年間の運用で細かいアップデートを重ねており、現在も定期的に見直しています。

承認会の審査を受けて、クリエイティブを修正した例を紹介します。
「ビズリーチ」の採用担当者さまに向けた、エンジニア採用に特化したLPのキービジュアルです。

修正前のクリエイティブは決定職種の30%がエンジニアである表現になっていますが、30%は多いのか、少ないのかが直感的に伝わらない可能性があると指摘しました。修正を行い、表現を4人に1人がエンジニア職である言い回しに変え、受け手が直感的に多いと思えるメッセージになりました。

また、30%の根拠となるデータが明記されておらず信頼性に欠けるため、注釈を追加しています。

さらに、承認会で品質をチェックして終わりではなく、審査結果を定量化して、クリエイティブ制作のPDCAを回す仕組みも運用しています。

まずスプレッドシートを使って、承認会があったその日のうちに指摘事項をまとめた議事録を展開できる仕組みをつくりました。指摘事項のデータは自動で可視化され、事業やチームごとに、どのチェック項目の指摘が多いかを確認できます。チームはこの可視化されたデータを元に、リアルタイムで制作プロセスを改善できるようになっています。

ここまで、コミュニケーションデザイン評価モデルの運用方法について紹介してきました。では、運用からどのような成果をあげられたかを次のセクションで紹介します。

2年間の成果と新たに見えた課題感

定量化によるデザイン品質の可視化

2020年9月から2年間、コミュニケーションデザイン評価モデルを運用してきました。
運用を継続してきた最大の成果は、定量化が難しいコミュニケーションデザインの品質を可視化できたことです。

運用開始当初は、デザイン品質をグラフにすると上下にばらつきがあったものの、現在のグラフは安定しています。このことからブランドリスクの抑制とデザイン品質の安定化を実現できたと言えると考えています。

また、デザイン品質をカテゴリごと、チェック項目ごとに定量化したことで、各デザイナーはクリエイティブ制作における課題感がわかり、チーム単位でセールス組織のように定量化した目標を追えるようになりました。

経営へのレポート体制の構築

さらに四半期ごとにレポートを作成して、経営会議に報告するサイクルを構築しました。

事業ごとのデザイン品質の推移や傾向を分析して、レポートにまとめています。非デザイナーからは、デザインの品質が高いのか、低いのか分かりづらいものだと思いますが、可視化することで一定の共通認識を得られるようになり、コミュニケーションデザイン部としてブランドリスクを抑制している説明責任を果たせるようになりました。

新たなチャレンジへの足枷にならないような方法を模索中

成果だけでなく、課題も見えてきています。審査基準を定義し、数値目標を設定したことで、無意識のうちにデザイナーが縮こまってしまい、新たなチャレンジをしづらくなっているのではと感じています。

コミュニケーション評価モデルは、あくまでも最低限の品質を担保する仕組みに過ぎません。お客さまの心を掴める魅力的なクリエイティブをつくるためにはどうしたらいいか、最低限の100%品質から120%の品質にする方法はないかを、現在も模索しているところです。

おわりに 目指すは事業におけるデザイン価値の証明

今回、紹介しましたコミュニケーションデザイン評価モデルは、まだまだ発展途上の仕組みです。

今後はデザイナーだけでなく、事業に関わるメンバーもデータから学びを得られるよう、誰が見てもわかりやすいデータに進化させる計画です。究極的には、デザイン品質と事業成果の相関性を明らかにして、事業におけるデザインの価値を証明したいと考えています。

手前味噌になりますが、近年インハウスのコミュニケーションデザイン組織が増えるなかで、ここまでデザイン品質を可視化できている組織は数少ないと思います。こうした仕組みだけでなく、個々のメンバーがクリエイティブ、ユーザーに愚直に向き合ってデザイン品質を高められている組織だと自負しています。

コミュニケーション評価モデルは始まりでしかありません。コミュニケーションデザインの可能性をさらに広げることで、唯一無二のコミュニケーションデザイン組織を目指していきたいと思っています。

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