
デザインの品質を定量化する「コミュニケーションデザイン評価モデル」
株式会社ビズリーチにて、コミュニケーションデザイン部の部長を務めます三井です。 コミュニケーションデザイン部では、デザインの観点を定義し、デザイン品質を定量化する「コミュニケーション評価モデル」を運用しています。今回はコ […]
皆さんはじめまして。HRMOS事業部のマーケティング部 コミュニケーションデザイングループに所属している細淵です。マーケターの方々と協業しながら認知やリード獲得の最大化などを行っています。
今回は展示会というオフラインの場において、クリエイティブの観点からいかに効果測定を行い目標達成できる施策にすべきか、また長期的に改善していく上でどのようなKPIを持つべきかを事例を交えてご紹介します。
ただ依頼されて作るだけではなく、実際に作ることで何の価値があるのかの把握に困っている方、どんな態度変容をさせたいのかを考えている方、局所的なUXでなく顧客体験のジャーニー全体でのUXを考えている方、また新たな効果測定の手法や計測方法を模索している方に読んでいただきたく記事を執筆してみようと思います。
私はマーケティング部に所属して以来、展示会のクリエイティブをほぼ全て担当してきました。その中で5月に出展した展示会で、過去最多の商談機会を獲得しました。
過去の展示会出展を振り返ると、常に成功と言える水準の成果を出せていた一方で、成功要因の振り返りに関しては常に課題が残っていました。
成功要因の特定は出展回数を重ねることで分かってくる部分もあるのではないか?と期待していた時期もあったのですが、まだ自分たちが納得できる水準とは言えないのが率直な現状です。
現状は、「展示会というチャネルは、以下のような条件の多さから目標達成理由の明確な特定がそもそも難しい」という前提で取り組んでいます。
内的因子:展示会プロジェクトメンバーで判断できること
・声掛け人員の配置場所、人員数、職域での数値変化
・HRMOSシリーズ※内から出展しているサービスの違いによる実績変化
・HRMOSシリーズ内での訴求の違い
※ HRMOSシリーズは採用、タレントマネジメント、勤怠など、複数サービスを備えた人財活用プラットフォームです
外的因子:展示会プロジェクト以外の影響も受けること
・出展ブースのコマ位置
・来場者数
・開催エリアでの顧客属性・ニーズの違い
・そのエリアでのCM放映状況の有無
上記に加えて、ここ数年は新型コロナウイルス感染拡大という、人々の生活様式そのものにまで影響をもたらす条件も加わっています。
その一方、クリエイティブ作成にあたっては、マーケター、セールスのメンバーと一緒に試行錯誤を重ね、パーセプションフローを活用したり、ペルソナ像を固めたり、カスタマージャーニーマップを引いたりして、様々な仮説を立てる取り組みを継続しています。それを以てしても、あまりに条件が多く、「目標達成の要因を特定できないが成功した(している)状態」といえます。デザイナーとしては「なんか勝てたっぽい」という感覚が拭いきれていません。
「お客様にとって意味、価値のあるクリエイティブを効率的に作りたい」という信念の元、質の高い効果検証ができる体制づくりは継続していきたいと考えています。今回は直近で開催された展示会で実施したものを紹介します。
Webマーケティングのように展示会でマーケティングファネルを作りました。ヒントになったのはWebサイトの訪問者数とコンバージョンの関係でした。訪問からのコンバージョンの流れ、離脱率などあれだけ細かく見れているから改善ができる。でもオフラインではそれがない。だったら計測すればいいのでは?と考えました。
展示会では全体来場者数(Webでは訪問者数)は運営から発表がありますが、名刺獲得数、商談化数、さらには受注数は見れますが、途中のファネルはごそっとありません。
マーケターが分析してきてくれたおかげで、来場者数から名刺獲得数、商談獲得数の転換率は感覚値としても大きなブレは無くなりました。ただ、毎回ブースの広さや出展位置が違う中でブースの目の前を何人通ったかは誰も知りません。来場者数が増えれば当然目の前を通過するお客様も増えますが、肝心なポイントはその転換率です。なので、展示会の開催期間である3日間すべて、来場者数が最も多い時間帯にアナログでブース前を通過した人数などを計測してみました。
計測したデータから、それぞれの転換率を算出しました。
・足止めしたお客様の数 / 目の前に通ったお客様の数 = 認知喚起n%
・弊社の関係者と会話した数 / 足止めしたお客様の数 = 興味喚起n%
・ブースに入りデモなどを触った数 / 弊社の関係者と会話した数 = 検討喚起n%
・名刺交換を行い商談日を確定した数 / ブースに入りデモなどを触った数 = 行動喚起n%
これらをそれぞれ3日間で同時刻帯1時間ずつ計測してみた結果、3日間の転換率に大きな差分はありませんでした。なので、データに対して一定数信頼ができるデータといえます。
このデータ・計測をベースに、「もっと足止めを狙いにいきましょう」、「興味をより高めていきましょう」など、さらに一歩踏み込んだクリエイティブの情報設計ができるようになります。
クリエイティブ一つ一つ、パンフレットやチラシ、ブース、ノベルティなどそれぞれ明確な目的のもと設計していますが、今回のファネルとパーセプションを用いて「深化した仮説」で施策の有効性が計れるようになりそうです。マーケターからも出展位置が変わった時の影響に対して仮説を立てることができるのでありがたいという声をもらえました。また各クリエイティブの狙いに対しての効果を担当者の方にヒアリングもしやすく具体的なネクストアクションが増えました。
具体例ではお客様の歩く導線に合わせて、印刷物→映像→音、ではなく音→映像→印刷物の順で訴求するストーリーを作れば、転換率に差が生まれるはずです。
またサービスで転換率が変わるのであれば、ブースを分けて出展した場合のデータを見ればどのサービスが来場者であるお客様の顕在ニーズが高いのかもわかります。
持続的にマーケティングコストを投下し続ければ認知度が上がるので、転換率も微増はしていくでしょう。ただ、どの転換率をどれだけまで上げられるか、一つのクリエイティブでどのような効果を期待できるのかを数値をもとに議論できれば、クリエイティブ制作の狙いの精度も上がります。
「10万人に見てもらうパンフレットを作ります」ではなく、「1時間あたりの来場者1,000人のうちの約n%が足止めするお客様なので、その方々を確実にデモ誘致させるためにパンフレットをこう変えたいです」の方が説得力があるのは明らかです。
私も含めてデザイナーは、展示会だけではなく様々な場面で、業績貢献や事業貢献の説明を諦めてしまいがちです。最後に、私がビジネスへのコミットメントにつなげるため、普段意識している考え方をまとめました。
・データは諸条件を揃えられれば、一定信頼できる根拠になりうる
・変則的な施策でも共通項として見れる指標は必ずある
・デザイナーだって指標を作って試していいし、提案したっていい
マーケティングは短期的な施策も勿論大事ですが、結局長期的な接点、ナーチャリング(お客様の意向上げ)も大事だと思っています。データを測れなかったり、成功・失敗要因を特定できなかったとしても、現地への視察や自ら考えた指標から見つけた小さな発見でクリエイティブを改善できると考えています。
「なんとなくこのデザインがいいな」「これがいい理由が説明できない」など言語化しにくいプロジェクトはたくさんあるかもしれません。しかし、切り口一つで、データからよかった理由・悪かった理由を分析できることはたくさんあります。
この記事が何のために作るのか、作ってどうさせたいのか、結果どうなったのかなどをより考えられるきっかけになればと思います。