Visional Designer Blog

5年続けて気付いた、デザイナーの採用広報が担う3つの役割

Visional Designer Blogはこの6月で5周年を迎えました。最初の記事が公開されたのが 2017年6月5日、この記事が6年目の最初の記事になります。いつもブログを読んでくださっているみなさま、本当にありがとうございます。

今回はそんな5年の節目に、ブログを運営するデザイン・ブランディンググループが実践している取り組みを「1.採用担当者との連携」「2.現場メンバーの巻き込み」「3.チームの運営」の3つの切り口から紹介します。

デザイン・ブランディンググループは、採用担当者・現場デザイナー・事業部・経営と関係者が多いからこそ、プロジェクトやチームをマネジメントして、立場の異なるメンバーと協働しています。

そのため、状況に応じて「採用担当者」「プロジェクトマネージャー」「デザイン・ブランディンググループのメンバー」と、「3つの役割」を切り替えなければいけません。

私自身、デザイン・ブランディングの活動に携わり、まもなく丸3年が経ちます。日々の取り組みに加えて、活動から学んだ「3つの役割」での仕事の進め方もお伝えできればと思います。ですので、今回は採用広報のはじめ方や進め方、いわゆる採用ブログの書き方などは取り上げません。

各社がデザイン組織を立ち上げ、デザイナーの採用広報が活発になるなか、同じ役割を担う方の参考になれば嬉しいです。

デザイン・ブランディング、その定義とこれまでの成果

そもそも「デザイン・ブランディング」とは何か。2018年の記事で、このように定義しています。

簡単にいえば、「企業のデザイン活動に特化した広報」のようなもの。イベント以外にも、メディア掲載や、デザイナーブログでの発信も担当しています。

デザイン・ブランディングという、おしごと —— Design Scramble 2018 に参加して 」より

デザイン・ブランディングの先には、採用というゴールがあり、仲間を増やすことが事業や企業の成長につながり、さらにその先のビジョン実現に貢献できると信じています。また、私たちの発信が誰かのヒントになることで、デザイン業界全体のより良い未来に貢献したいという想いもありました。

こうした目的と想いで続けてきたのが、デザイン・ブランディングの活動です。

イベントに参加した学生が、その4年後にデザイナーとして入社

これまで継続してきたデザイン・ブランディングの活動は、採用活動にも還元されています。

例えば、スカウトのメッセージには公開した記事のURLを添付しています。キャリア候補者向けのスカウト返信率は、高い水準を維持していますし、新卒向けでは、あるサービスから送ったスカウトにはほぼ返信をいただけています。

直近で最も嬉しかったのは、2022年に入社した新卒デザイナーと話した時のことです。
そのデザイナーが私たちのデザイン組織を認知したのは2018年のイベント。その後も発信を見続けて、4年経った今年入社しました。

こういった声を聞くと、時には集客がうまくいかないイベントや、思うように読まれない記事もありましたが、めげずに活動を続けてきて良かったと思います。

それでは、次のセクションからどんなプロセスでデザイン・ブランディング(以下、「デザブラ」と略します)の活動をしているかを紹介します。

1.採用担当者とは、目標と課題を共有して活動する

まずは「採用担当者との連携」についてです。
大切にしているのは、時間をかけて一緒に採用課題に取り組むことです。最初に連携の成果をいくつか紹介します。

候補者に一貫した採用体験を提供
2021年のインターンシップでは、採用担当者が主に企画を立ち上げ、デザブラがデザイン制作やスケジュール管理を担当。

一緒にインターンシップのコンセプトやコピーから議論し、特設サイトや広告などの初期接点、意向上げの採用資料、期間中のノベルティやZoom背景まで、同じテーマでクリエイティブを制作しました。また、インターンシップのカリキュラムも採用担当者と共に作成しています。

2021年 サマーインターンシップのクリエイティブ

採用計画に合わせた意向上げの記事作り
どの求人がオープンになるか、どのタイミングで歩留まりが発生しそうかを共有。起きうる課題に先手を打つ形で、候補者の方が次にお会いする面談官のインタビュー記事など、候補者の方の不安を解消する記事作りができるようになりました。

対外的な露出や認知向上を目的にした短期的な視点と、採用の流れを俯瞰し、特定のステップにいる候補者の方の意向上げにつながるかの長期的な視点、2つの視点を行き来しながら企画を立てています。

採用担当者の手が回っていない課題のサポート
ブログで培ったライティングのスキルを活用して、より求職者の方に魅力的な内容になるよう求人票やスカウトの改善に取り組んでいます。

連携は「とりあえず定例ミーティング」からではなく、課題共有からスタート

採用担当者との連携はいきなりミーティングを組んでも、うまくワークしなかったかもしれません。連携が進んだきっかけは、新型コロナウイルス感染拡大による新卒採用のオンライン化です。

私がデザブラに参加したときは、デザブラと採用担当チームのマネージャーレイヤーでの会議体はありましたが、メンバーレイヤーでのやりとりは少なく、お互いがタスクを依頼し合う程度の関係でした。

採用活動のオンライン化に伴い、会社説明会やインターンなど、従来の方法を見直さざるをえず、自然と同じ課題を考える機会が増えました。そのなかで、自然とメンバー間での定期的な対話が増え、メンバー単位、チーム単位で課題への目線が合ってきたと思います。

デザブラは採用フェーズの「認知」の部分を担っていましたが、徐々に視野が広がり、採用フェーズ全体を俯瞰できるようになりました。視野が広がると、認知フェーズのみに設定していたチームのKPIは、エントリー数や面接数のような採用に近いKPIを設定するようになりました。

この1〜2年で新卒採用との連携がスムーズにできるようになり、現在はキャリア採用とも同じように連携できるよう、模索しています。

デザインの言葉を使うなら、採用担当者は「候補者」=「ユーザー」のことを1番知っています。一緒に共通の課題に取り組み、私もユーザーや採用活動の解像度が上がってきました。

同じ目標や課題に向かう中で、自然と対話が必要になり、定期的なミーティングが組まれる。意図せずこの順番になりましたが、課題の視線が合わないまま定例ミーティングを始めていたら、遅かれ早かれ形骸化していたと思います。

2. メンバーを巻き込む前の準備に、最も時間を使う

次に、現場メンバーの巻き込み方です。
個人的に大切にしているのは、メンバーが次も協力したい、やってよかったと思えるよう、入念な準備をして最後まで伴走することです。

具体的には、プロジェクトマネジメントの手法に基づき、準備・伴走しています。

プロジェクトに巻き込む前
メンバーを巻き込む前の準備に、最も時間を費やします。
巻き込む際は、プロジェクトの目的、誰をターゲットにして、どんな感想が持たれるのが理想的かを最初に伝えます。

形式的なタスク依頼だと、当事者意識を持ちづらく、依頼する/されるの関係になってしまうので、「なぜやるのか」の目的から共有することが重要です。場合によっては、一緒にターゲットや理想の感想から考えるので、目的と期日だけは必ずこちらで準備します。

極力避けているのは、メンバーが何をすべきかわからない状態になることです。
「とりあえずブログを書いてください」のような巻き込み方はせず、迷った時に立ち返れるよう、プロジェクトの目的や参考情報は1つのシートに集約しています。

プロジェクト中
クリエイティブな作業、その人にしかできない作業に時間を費やせる環境を作ります。

記事執筆など型が決まっているものは、マニュアル化して可能な限り効率化。ネクストアクションを明確にし、関係者との調整など誰でもできる作業はデザブラが担当します。

プロジェクトのパートナーとして、迷ったらいつでも相談できるようオープンなスタンスを心がけ、不安な気持ちにさせないよう最後まで伴走します。

プロジェクト後
アウトプットができたらおしまいではなく、外部からのポジティブな反応はすぐに共有します。

また、プロセスそのものを改善し続けるため、やりにくいと感じることはなかったかフィードバックをもらい、責任範囲が曖昧な状態をなくすなど至らなかった部分を改善しています。

信頼関係があるからこそ、情報発信を続けられる

ここまで入念な準備を重ねるのは、デザイン・ブランディングの活動を続けるためです。
情報発信などの活動は、続けることに意味があります。そのためには、現場で事業に向き合うメンバーの協力と信頼関係が不可欠です。

デザブラメンバーの増減もあり、発信量こそ減りましたが、5年間発信を続けられたのは、デザブラを立ち上げたメンバーが築いた賜物であり、この信頼関係は資産だと思っています。

初めての協力依頼を断る人はほとんどいません。
しかし、その優しさに甘えて、準備不十分で成果の出ないプロジェクトに巻き込むと、信頼関係を失い、活動は続きません。

私たちにはメインプロジェクトでも、現場のメンバーにとってはサブプロジェクト。業務の時間を割くのだから、気持ちよくプロジェクトを終えて、次も協力したいと思ってもらえるよう、入念な準備をして伴走します。

3.チームの運営は、コミュニケーションの設計で活動にリズムを作る

最後にチームの運営についてです。
現在デザブラのチームは、主務が2名、兼務が2名の4名体制で、大小合わせると常時10〜15の施策を行っています。

時間軸と情報の粒度に合わせ、コミュニケーションの場を整理して、チームの活動にリズムが生まれるようにしています。

日次で、施策レベルの相談できる場を作る
気軽な相談の場作りや、適度な情報共有でコミュニケーションしやすい環境を作っています。

例えば、週3回の「ハドルタイム」と称した相談・雑談OKの時間です。在宅勤務のときに気軽な相談がしづらくなったという声から、任意参加でSlackの「ハドルミーティング」機能で、施策の困りごとなどを話しています。

また、他の会社の取り組みをチャンネルで共有して、アイデアをストックしつつ、緩めの投稿もしやすい雰囲気を作っています。

週次で、施策全体のステータスを共有する
毎週のチームミーティングでは、施策の進捗確認と困りごとがないかをチェックしています。スプレッドシートに全ての施策を一元化しているので、あれはどうなったっけとなることはありません。

また、施策を決議する上位の会議と、チームミーティングをリズムよく配置して、提案 → 決議 → 実行を迅速にできるよう設計しています。

月次で、チームのアウトプットを振り返る
月初に、前月のOKRに対する進捗と、実行した施策を振り返ります。

振り返りは、アジャイル開発における「ベロシティ」の考えをアレンジして実施しています。チームが成長しているかを測る基準がなかったため採用しました。

前月に完了した施策の作業量を点数化して、過去の平均値と比較。チームのアウトプットが一定の水準を保てているか、長いスパンで成長しているかを見ています。

今後はアジャイル開発と同様に、チームの作業見積もりなどにも活用したいと考えています。

こうした会議体の設計はマネージャーの役割でもありますが、メンバーの私たちからの意見も伝えて日々改善しています。網羅的に情報が流通しているおかげで、リソースが逼迫したときに、やる・やらないの意思決定もしやすくなりました。

3つの役割を切り替えながら、活動を推進する

ここまで3つの切り口から、私たちが実践している取り組みをお伝えしてきました。
1つ1つは当たり前のことですが、「採用担当者」「プロジェクトマネージャー」「デザブラメンバー」と3つの役割を行き来しながら活動を進めています。

と、ここまで説明してきましたが、私たちも始めから役割を明確に言語化できていたわけではありません。まず大前提として、情報発信はすぐに採用につながるわけではありません。まずは何より、続ける意志と、採用指標を通じて周囲への説明責任を小さく果たしていくことが大切だと考えています。

活動は続いているが、課題はまだまだ山積み

仕組みも整い、順風満帆なようにも見えますが、現時点でチームとしては50〜60%くらいで、取り組むべき課題は山積みです。

5年の節目もあくまで通過点。10年、20年と末長く組織でデザインの価値を発揮し続けるために、デザブラがやるべきこと、やりたいことを挙げればキリがありません。

おわりに|デザイン・ブランディングから得た2つの気付き

最後に個人の視点から、デザイン・ブランディングの活動で得た気付きを2つ紹介します。

1. 肩書きに惑わされなくなった

始めた当初は、採用広報、採用マーケティング、インハウスエディター、HRBP、DesignOps、デザインプログラムマネージャーと、似たような意味を持つさまざまな言葉を耳にし、自分は何をするのが正解なのか悩む時期もありました。

「デザイン・ブランディング」は造語で、検索してもその定義はどこにも掲載されていません。定義がないからこそ、課題や目的は何かを自問し続け、自分の役割を更新し続けています。

2. デザイナーと共に仕事をして、「デザイン」の思考を使えるようになった

デザインと採用の共通点は「一貫性」です。デザインのプロセスで大切なことは「一貫性を保つこと」と学び、一貫した採用体験は優位性になると実感してきました。この考えに至ったのは、デザインの最前線で取り組みを観察し、その思考に影響を受けてきたからです。

私たちのデザイン・フィロソフィーには「私たちがデザインをする対象は、すべて」とあります。自分自身の思考や働き方にも「デザイン」が浸透していると強く感じます。

入社した当時、私はデザイナーとしても、人事としての経験もありませんでした。
ここまで活動を続けられているのは、「デザイン」を実践する社内のメンバー、採用担当のメンバー、力を貸してくださる社外メディアや採用サービスのみなさまのおかげです。この場を借りて心から感謝します。

最後になりましたが、ここまで読んでくださったあなたにも改めて「ありがとう」を伝えると共に、これからも Visional Designer Blog 、ならびに VISIONAL DESIGNをよろしくお願いします!

キービジュアル、図版作成:森重 湧太

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