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作るだけじゃない。「ビズリーチ」リニューアル 新しいユーザー体験創出のプロセス

こんにちは、プロダクトデザイナーのジャスコです。

ビズリーチ事業部で、企業様向けプロダクトを担当するデザイナーチームのリーダーをしています。

「ビズリーチ」のような約500名が所属する規模のサービスで、表層部分のデザインをつくることと同じくらい、むしろ、それ以上にデザイナーが時間を費やしていることがあります。

それはプロダクト開発に関わるメンバーに対してデザインの説明責任を果たし、合意を得ることです。そのため、日頃からメンバー間で綿密にコミュニケーションを取り、プロトタイピングを通じて認識をすり合わせています。

もちろん合意形成は目的ではなく、ユーザーに価値を届ける目的達成のための手段でしかありません。ではなぜ、合意形成に時間を費やすのか。それはVisionalのデザイナーは体験設計の責任者として、ユーザー体験の品質を守ることを大切にしているからです。

メンバーとの入念な合意形成のプロセスによって、表層や骨格のデザインが支えられ、ユーザー体験を守ることになります。

今回は「ビズリーチ」の企業様向けプロダクトのリニューアルを例に、どのような合意形成を経て、新しいユーザー体験の創出を推進したかご紹介します。

10年間の負債を返済するリニューアルプロジェクト

リニューアルした「Executive Search Support」(以降、ESS)は、ヘッドハンター様が利用するプロダクトです。

このプロダクトでは、求職者の検索、スカウトの送信、メッセージ機能を用いた転職決定までのサポートを一気通貫で行うことができ、約4,600名(2021年1月末)のヘッドハンター様に利用いただいています。

リニューアルの目的は、10年前のリリースから蓄積してきた技術負債の解消と、抜本的なユーザー体験の見直しでした。

デザイナーの役割は、ヘッドハンター様の業務効率向上のため、業務フローに沿ったユーザー体験の提供です。主に旧プロダクトのユーザー体験をベースに、IAの再設計や機能改善を行いました。

ダッシュボードや会員検索機能、スカウト送信機能、メッセージ機能と、ヘッドハンター業務の根幹に関わる画面を中心にすべての画面を刷新。10年でパソコンのスタンダードな画面サイズが変わるなど、外的要因もあり、結果的にほぼ新しいプロダクトを1からつくるプロジェクトになりました。

合意形成に向けて、要件定義と壁打ちを繰り返す

リニューアルで行ったことの大部分は、再定義した業務フローと要件から、新たな画面やデザインの仕様を作成し、開発メンバーと合意をとっていくこと。そして、合意形成の根拠となる情報を集めることです。

ここで必要となる情報とは、旧プロダクトの機能要件や、その要件に至った背景、ユーザーとなるヘッドハンター様の業務実態です。

合意を得るときに、それらを十分に理解しなければ「なぜそのデザインであるべきなのか」を語れません。デザインの根拠を語れるほどの情報がなければ、自ら情報を集めなければなりません。

今回のリニューアルでは「旧プロダクトの課題やユーザーの理解」「新プロダクトの要件定義とデザインの作成」「エンジニア、プロダクトオーナーへの壁打ち」を繰り返して、少しずつ合意を得て、デザインに落とし込んでいきました。

ここからは「新プロダクトの要件定義とデザインの作成」「エンジニア、プロダクトオーナーへの壁打ち」の具体的な進め方について説明します。

大きく3つの判断軸から要件を定義する

新たな仕様やデザインは、旧プロダクトの課題を起点にして、提案していきました。

セールスチームの協力を得ながら、ヘッドハンター様からの要望やインサイトを列挙し、旧プロダクトの課題として抽出。それらを解決する要件やデザインや考えます。

ただし、すべての課題を解決しようとすると、方針や優先度が曖昧になり、リニューアルを終えるまでに膨大な時間がかかってしまいます。そこで限られた時間で推進するため、要件を決めるにあたり、解決する課題の判断軸をもつようにしていました。

ここでは、大きく3つの判断軸を紹介します。

1. 業務ルーティンへの影響度

スカウトやメッセージなど、求職者との連絡が業務の大半を占めるため、これらに影響を及ぼす課題は、優先的に対応していきました。たとえば必要なデータが提供されていない画面設計や、不要な遷移が発生している導線などです。

不要なアクションや判断の遅れで1回につきたった0.5秒のロスでも、その作業が1日に数百回と行うルーティンに組み込まれていれば、業務効率への影響は非常に大きくなります。

一方で、利用頻度、事業影響ともに低い課題は、優先度を下げてリニューアル後の対応タスクとしてバックログ化しました。

2. 最大公約数のユーザー課題を解決できるか

ありがたいことに、ESSは多くのヘッドハンター様にご利用いただいています。そのため、お客様によって扱う求人の数や得意とする業界、企業規模や年齢など属性が千差万別で課題感やニーズは異なります。

そのなかで、なるべく多くのユーザー体験に当てはまる最大公約数の課題を発見して、要件を決めていきました。

代表的な例をあげると、求職者の検索条件の並び順です。

30項目を超える検索条件の配置は、旧プロダクトにおける利用率やお客様へのヒアリングなど、定量・定性の両方の観点から検討し決定しました。

3. 事業へのインパクト

お客様からのお問い合わせや要望の解消も大切ですが、ただそれに応えるだけでなく、デザイン要件を事業指標と関連づけるビジネス観点も重要です。

スカウト型プラットフォームの特性上、ビジネス上の指標のひとつに「ヘッドハンター様と求職者様との接点数」を置いています。こうした事業構造を理解したうえで、スカウトの返信率や送信数といった指標も観点に含めながら、事業への影響度を判断します。

代表的なお声として「求職者様の職務経歴書を確認しながら、スカウト文を作成したい」というご意見を数多くいただいていました。その裏には、求職者一人ひとりに向き合い、丁寧なスカウト文を考えたいというインサイトがあります。

そのため「意見が多いから、このデザインにしましょう」という伝え方はしません。

「スカウト文を丁寧に書ける設計にして、スカウト返信率の指標改善にもつなげる。だから、このデザインにしましょう」と、お客様の声に応えることと事業への影響をセットで語るようにしています。

お客様の声と事業インパクトを紐づけて、いま施策を行う必然性を説くことで、デザイナー以外のメンバーにも納得してもらえます。

壁打ちを繰り返して、合意形成と情報収集のサイクルを回す

さまざまな判断軸から仕様やデザインを作成し、他メンバーへの壁打ちと合意形成を進めていきます。

壁打ちや合意形成では、Adobe XDとスプレッドシートの出番です。

メインのユースケースとなる正常系導線はAdobe XDでLo-Fiプロトタイプをつくり、特定の条件で触れる準正常系、異常系導線はスプレッドシートでパターンを管理します。すべての導線のプロトタイプをつくらないのは、条件分岐が多く管理が複雑になり、かえって効率が悪くなるためです。

重要なのは、プロジェクトチーム内で、精緻に共通認識をつくることなので、ツールは特定のものにこだわらず適材適所で使い分けていました。

練り上げた仕様やデザインに対し、エンジニアやプロダクトオーナーから機能や分岐パターンの考慮漏れのフィードバックをもらいます。

フィードバックを反映して終わりではなく、旧プロダクトの仕様に至った背景や、ヘッドハンター様の業務実態などを自分の言葉で語れるまで理解するようにしました。

壁打ちでフィードバックを受け、既存仕様の理解をすすめながら、仕様やデザインを作成する。そして、また新たなフィードバックを受ける。

こうしたサイクルのなかで、合意形成と情報収集を並行して進めていきました。

リリース前のユーザーテストで、さらなる磨き込み

もちろん、社内のメンバーだけで、リニューアルを進めたわけではありません。

リリース直前のタイミングで、お客様にデモ環境を操作いただき、日々の業務フローに影響はないか、考慮漏れがないかを確認していきました。

このときに入念に確認したのは、ルーティンに関わる機能のうち、操作感や見た目が大きく変わった機能です。

今回のリニューアルでは、メッセージ画面の体験設計を、メールベースからチャットベースに変更し、IAやUIを大きく変更しました。メッセージのやり取りは毎日行うので、業務に影響がないか念入りにテストしていただきました。

当然、実際にお客様に操作いただきわかることもあります。

背景と文字のコントラストや、ステータスラベルの色使いなど、毎日使うからこそ気になるポイントについて意見をいただき、細かな調整に生かしていきました。

また、実際の企業名や部署名を流し込んでみると、想定していた印象と異なったり、見切れが生じたりするなどの問題が見つかり、リアルなユーザーに使ってもらって初めて見つかる考慮漏れもありました。

リニューアルで得た気づきから始めた新たな取り組み

プロジェクト立ち上げから、約1年半の歳月をかけて、リニューアルしたプロダクトをリリースしました。

リリース後は、お客様からいただく要望に対して、毎週対応方針や優先度を議論しながら、改善を進めています。リニューアル前は技術負債やデザイン負債の影響で改善すら難しく、このような小さな改善をしやすくする土台づくりもリニューアルの1つの目的でした。

リニューアルで得た最大の気づきは「旧プロダクトと向き合うことの大切さ」です。

「ビズリーチ」のように10年以上続くサービスのリニューアルでは、ユーザー体験の大きな変更による事業インパクトも考慮に入れる必要があります。

新プロダクトのご利用にあたっては、新しく操作方法を学習したり、一部業務プロセスの見直しを迫られるケースもあります。

このようなコストよって一時的に業務効率が低下するリスク、あるいは新プロダクトへの移行意欲が下がるなどの懸念を払拭するためにも、旧プロダクトの利用実態や仕様は無視できません。

ユーザー体験の品質を守るため、旧プロダクトと向き合って、そのデザインでなければいけない説明責任を果たし、メンバーとの合意がデザイナーの役割と改めて実感しました。

リニューアルで得た気づきを今後の業務に生かすべく、デザイナー間で施策のレビューできるよう施策提案のフォーマットを作成しました。

レビュー観点として、扱う問題が業務実態やインサイトに根差しているか、施策の打ち手が適切かどうかなどをチェックし、チーム全体で提案力の底上げに取り組んでいます。

終わりに

「ビズリーチ」のプロダクトリニューアルを例に、どのように合意形成を進め、新たなユーザー体験を創出してきたかを紹介しました。

ユーザーが触れる見た目のデザインは業務の氷山の一角に過ぎず、水面下では情報収集、整理を経て、プロトタイプやスプレッドシートを用いた合意形成に多くの時間を割いています。

強調しておきたいのは、合意形成は目的ではないということです。あくまでユーザーの利が目的であり、デザインの合意形成は目的達成に向けた1つのステップに過ぎません。

デザイナーのコトの進め方にも、正解はありませんが、この記事があくまで一例として参考になれば幸いです。

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