Visional Designer Blog

「観察」と「可視化」のチカラで、運用コストを削減。ビジネスチームに弟子入りして、プロダクトを改善した話

こんにちは、プロダクトデザイナーの熊谷です。

新卒事業部のプロダクト開発チームで、デザイナーのリーダーとして「ビズリーチ・キャンパス」のプロダクトデザインを担当しています。

今回はわたしがプロダクト改善のプロジェクトを立ち上げ、課題の定義からプロダクト改善を行い、カスタマーサクセスの運用コストを削減した事例をご紹介します。

プロダクト開発に関わるメンバーだけでなく、ビジネスサイドのメンバーと協働して、デザイナーが事業に貢献した事例の1つとして、参考になれば幸いです。

事業拡大に備えたプロダクト改善プロジェクトの立ち上げ

わたしが所属する新卒事業部で運営している「ビズリーチ・キャンパス」は、OB/OG訪問を通じて大学生のキャリア形成を支援する、オンラインのキャリア教育プラットフォームです(2020年12月時点で、40大学に対応中)。

新卒事業部では「ビズリーチ・キャンパス」の提供以外にも、学生向けにオンライン説明会などのイベントを開催しています。また、カスタマーサクセスの一環として、企業様がサービスをスムーズにご利用いただくため運用サポートを行っています。

この運用サポートを行う「グロースチーム」が、ご利用企業様とサービスの信頼関係をつなぐ新卒事業部の要の1つです。しかし、サービスを利用いただく企業様の増加に伴い、グロースチームの限られたリソースだけでは、運用サポートが難しくなっていました。

そうした背景があることに加え、今後の事業拡大を見越し、プロダクト開発チームのOKRに「運用に耐えうるプロダクト改善」を行うことが設定されました。

お客様が利用するプロダクト画面

OKRが決定したタイミングで、わたしからプロジェクトの発足をPOに持ちかけました。デザイナーがどの開発メンバーよりも早くプロダクトの出来上がったイメージを描けていないと、デザインが開発のボトルネックとなってしまうからです。

こうして、グロースチームとPOを巻き込んで、プロダクト改善のプロジェクトが立ち上がりました。

グロースチームへの「弟子入り」から、機能実装まで

まず最初に行ったことは、グロースチームの業務理解と解決すべき課題の特定です。

今回はわたしがグロースチームに「弟子入り」する方法を取りました。

具体的には、自席をグロースチームの座席近くに移動。いつでも業務の様子を観察して、質問できる環境にします。それから約1週間、グロースチームの業務をとにかく観察しました。

今やっているのはどんな作業か、なぜその作業が必要なのか、その作業における障壁は何か。観察と質問を繰り返し、グロースチームの業務に対する理解を深めていきます。

わたしの観察を通じた解釈とグロースチームが実際の業務で感じていることにズレが出ないよう、観察した業務をFigmaで可視化して、毎日グロースチームに共有しました。こうして、業務で共通する作業や障壁を抽出していきました。

グロースチームの業務を可視化した図

明らかになったのは、グロースチームのマンパワーによって、お客様のサポートが行われている現状でした。メンバーによってサポートする方法が異なったり、管理するスプレッドシートやファイルが複数存在。また、運用時に何度も目視確認をしており、お客様がプロダクトを利用される際も誤操作のリスクが高いことがサポート状況から想定できました。

課題の特定〜あるべき姿の定義

業務の流れを可視化し、現状がある程度整理できた時点で、グロースチームと改善すべき課題を特定するステップに移ります。

スプレッドシートに現状をまとめ、あるべき理想の姿を定義。現状とあるべき姿のギャップをグロースチームとすり合わせて、何が解消されれば、あるべき姿に近づけるか。解消すべき課題を言語化しました。

現在の状況、あるべき姿、そのギャップをまとめたシート

言語化した課題をまとめると、グロースチームの抱える課題は「運用のため非効率な作業が多いこと」と「企業様がプロダクトを利用される際や、運用サポートにおいて人為的ミスのリスクが高いこと」の2つに集約されました。

グロースチーム、POと相談し「運用のコストを減らすよりも、リスクを抑えることが長期的に価値が高い」と判断。今回のプロジェクトでは「ミスによるリスク低減」にフォーカスし、あるべき姿を「利用企業様が増えても、グロースチームの運用サポートによるリスクをなくし、現状の組織体制でサポートを続けられること」と定義しました。

あるべき姿の認識が揃ったところで、リスク低減のために解消する課題を2つピックアップします。1つは、管理画面で対応が必要な学生が埋もれてしまうこと。もう1つは、どの学生のサポートが必要か、企業様と学生のメッセージのやりとりからしか把握できないことでした。

実装機能の決定〜デザイン〜実装まで

解決すべき課題が明らかになり、実装する機能とデザインを決めていきます。

今回実装したのは、管理画面で学生に複数のラベルを設定でき、ラベルのついた学生を検索できる「ラベル機能」。そして、学生とラベルをまとめてCSVファイルで出力できる機能です。

実装する機能の決定までは、そこまで時間はかかりませんでした。課題やあるべき姿を一緒にすり合わせていたので、グロースチーム、POと実装機能の方向性も共通の認識を作れていたからです。

そこに実装にかかるコストと機能が与えるインパクトを考慮し、費用対効果の観点から最小限のコストで大きな影響が出せると判断。プロジェクトメンバー全員が納得感を持って、実装する機能を決められました。

機能をデザインに落とし込んでいくときも、Figmaでプロトタイプを作成し、都度グロースチームに共有。一緒にデザインを検証しながら、デザインをブラッシュアップしていきました。

1番のユーザーであるグロースチームから、すぐにフィードバックをもらえる環境だったこともあり、機能決定〜デザイン〜実装は素早く完了させることができました。

事業部に点在していた知見や想いが1つに集約されたプロジェクトに

今回のプロジェクトで最も業務を観察したグロースチームの酒井に、機能が実装されたあとの成果を聞いてみました。

Q.新たにラベル機能などが実装されてからの成果を教えてください。

リスク低減だけでなく、結果的にサポート業務のコスト削減や円滑な業務遂行につながりました。体感ではありますが、以前より全作業における工数は20%程度減りました。

ラベル機能によって、お客様のサポート業務が簡単にできるようになり、お客様に学生への連絡や質問の回答を依頼しやすくなりました。結果的にプロダクトを自ら利用するお客様のご要望にも応える形となり、お客様から「ラベル機能ができて、とても助かっています」という声もいただいています。

リスク観点では、絶対に失敗できない中で、いつミスが起きるかわからない状況にストレスを感じていましたが、人為的なミスのリスクが減り、今は安心して業務に集中できています。

運用のコスト面でも、スプレッドシートでの管理が不要になり、管理画面だけで完結できるタスクが増えたおかげで、お客様に連絡対応の依頼をする工数は以前の1/5程度に。サポートが必要な学生のリスト作成は以前の1/3程度の工数になりました。

機能が実装された後に、グロースチームにジョインしたメンバーからは「この機能なしで運用していたことが信じられない」と言われるくらい、今ではなくてはならない機能です。

Q.デザイナー、プロダクト開発チームの印象はどう変わりましたか?

正直、デザイナーは画面の見た目を作るだけの人かと思っていました。ですが、一緒にプロジェクトを進めていくにつれ、作業範囲の広さに驚きました。わたしたちの毎日の仕事が図になり、頭の中でモヤモヤと思っていたことがどんどん形になったことは、デザインの凄さを感じた出来事の1つです。

プロジェクトを通じて、デザイナー含め、プロダクト開発チームとの距離が近くなり、これまで以上に頼れる存在だと思えるようになりました。

「弟子入り」時の写真(コロナウイルス感染拡大前に撮影)

これまでもお客様からプロダクトのご要望をいただくと「わたしたちのプロダクトとチームを信じてください」「お客さまの声は必ず届けますし、絶対にその声を放っておかない開発チームです」とお伝えしていました。チーム間の信頼関係が強固になって、以前よりも自信を持って、お客さまにはそう伝えられています。

手前味噌にはなりますが、新卒事業部に点在していた知見や熱い想いが、1つに集約されたきっかけがこのプロジェクトだったのかなと思っています。

おわりに:0から課題を見つけ、価値ある1をつくるために

グロースチームからの声もあり、プロダクト改善のOKRは達成。グロースチームと協働したことで、最小限の改善で大きなインパクトを残せたことが何よりの成果でした。

今回のプロジェクトを通じて、ユーザー中心に価値あるプロダクトをつくるには、「すべての過程において、ユーザーを巻き込む」ことが重要だと改めて感じました。

ただ要望に応えるだけの小さな改善にとどまらないよう、ユーザーの細部まで理解し、「なぜ」を繰り返して本質的な課題を考え抜く。また、価値の仮説検証でも、同じようにユーザーを巻き込んでいく。これが価値あるプロダクトをつくることだと、グロースチームとの協働を通じて思いました。

酒井の言葉にもありますが、以前よりグロースチームとの距離が縮まり、事業部内でのつながりが強くなったこともうれしかったです。

今回は自分からプロジェクトを立ち上げ、前に進めたことで、デザインのチカラで0から課題を見つけ、価値ある1をつくることができました。しかし、運用のリスク低減や工数削減に終わりはありませんし、お客様にとって本当に価値あるプロダクトになるために、「ビズリーチ・キャンパス」でやるべきことはまだまだあります。

これからも「デザイナー」の職域に囚われることなく、「デザイン」というツールを使って、事業のために必要なコト・モノを考え、できることには何でもコミットしていきたいです。

編集:デザイン・ブランディンググループ 柳田 裕平

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