Visional Designer Blog

ユーザーに寄り添い価値を提供 —— アプリのグロースにおけるデザイナーの役割

こんにちは、プロダクトデザイナーの武です。

デザイン本部 プロダクトデザイン室に所属し、ビズリーチ事業部でデザイナーのリーダーとして、求職者向けスマホアプリのグロースを担当しています。

早速ですが、スマホアプリのグロースにおけるデザイナーの役割とは何でしょうか。

ビズリーチのアプリグロースでは、ただデザインを作るだけではなく、時には要件定義のプロセスにおいても課題の特定や最適なUIの提案に貢献し、ユーザーに寄り添った体験を導くことがデザイナーの役割と考えています。

今回は、アプリグロースにおいて、課題特定や要件定義からデザイナーが関わり、アプリのUIを改善した事例を紹介します。

事業の成長に向き合うデザイナーのあり方の一例として、プロダクトデザイナーのみなさまの参考になれば幸いです。

即戦力人材と企業をつなぐ転職サイト「ビズリーチ」とは

「ビズリーチ」は企業と求職者が直接やりとりできる転職プラットフォームです。企業が求職者へ自らアプローチできるプラットフォームを提供することで、企業があらゆる手段を主体的に考え、実行する採用活動「ダイレクトリクルーティング」を推進し、優秀な人材のスピーディーな採用を支援しています。

また、求職者も今まで知りえなかった企業からアプローチを受けることで、キャリアの可能性と選択肢を最大化することが可能です。現在は累計14,600社以上、220万人以上(2020年11月現在)の会員の方にご利用いただいています。

わたしが所属するビズリーチ事業部では「プロフェッショナルに選択肢と可能性を」というミッションのもと、プロフェッショナル領域の転職のインフラになることを目指しています。

ビズリーチのユーザーは大きく3つの属性に分かれており、求職者、企業の採用担当者、そして、ヘッドハンターです。それぞれのユーザーが使用するプロダクトがあり、わたしたちは求職者に向けて、アプリを通じてキャリア選択をスムーズに進められる体験を提供しています。

アプリグロースチームでは、企業やヘッドハンターからのスカウトに対し、求職者様のアプリからの返信率を1つの指標としており、デザイナー以外にもエンジニアやプランナーと一緒にグロース施策を行なっています。

ABテストで気づいたユーザーの求める体験から離れたデザイン

ここからはアプリグロースのため、スカウト返信率改善を目的に行ったテンプレート機能のUI改善の事例をご紹介します。

ビズリーチのスマホアプリには、求職者がスカウトに返信しやすくするため、返信内容を入力する手間を省ける、「テンプレート機能」が実装されています。

テンプレート機能が使われているのか。また、もっとテンプレート機能を使いやすいものにできないかを検証するためABテストを実施しました。結論から言いますと、このABテストでは返信率の改善にはつながりませんでした。

まず、ABテストでは求職者がメッセージ画面のテンプレートの存在に気づきにくいのではないか、という仮説を立てました。そして、元々のテンプレート入力画面と返信率を比較するため、テンプレートを選択するボタンを分かりやすくする施策を実施しました。

デザインの検討プロセスでは、既存のチャットアプリを調査し、テンプレートを選ぶUIを決定。入力エリアをタップすると、3つの定型文が格納されたボタンが表示され、タップすると返信文にテンプレートを追加するUIを採用しました。

しかし結果として、このテンプレートの選択ボタンを分かりやすくする施策では、返信率の改善にはつながりませんでした。改善につながらなかった要因は大きく2つあると思います。

1つ目はユーザー中心ではなく、サービスを作る側の都合でデザインを決めてしまったこと。

求職者が課題に感じていることは「簡単に返信できないこと」にも関わらず、「ボタンの存在をわかりやすくすれば、もっと使ってもらえるのでは」というサービスを作る側の決めつけで仕様を決めていました。

2つ目は、ビズリーチとは異なるユースケースをベンチマークにしたことです。

ベンチマークにしたチャットアプリで行うコミュニケーションは、友人などとのフランクなものです。しかし、ビズリーチで求職者が行うコミュニケーションは、企業の採用担当者やヘッドハンターとのビジネス上の丁寧なものになります。

その違いを意識せずデザインを検討したため、求職者の求める体験から離れたデザインになっていました。

仮説の確度を高めるため、デザイナーとしてやったこと

1回目のABテストの反省を生かして、「ユーザーにとって本当に役立つ機能になっているか」「本当に欲しい機能になっているか」というユーザー視点を強く意識して、課題特定や要件定義の上流フェーズにも入っていきました。

ABテストの結果から、テンプレート機能が使われず、返信率の改善につながらなかった原因として、プランナーと一緒に3つの仮説を立てました。
 

  1. テンプレートのボタンをタップすると、メッセージが送信されてしまうと誤解し、使うことを躊躇したのではないか
  2. メッセージの入力エリアをタップした後、求職者の期待する挙動は「キーボードが表示されること」だが、いきなりテンプレートが表示されて戸惑ったのではないか
  3. メッセージの入力エリアをタップしないと、表示されないテンプレートに気づかず離脱したのではないか

この仮説をブラッシュアップするため、実際にビズリーチアプリを使って転職を決めた社内の人間にヒアリングを実施。ヒアリングを参考にカスタマージャーニマップを作成し、求職者のユーザー体験を可視化しました。そして、何度も立てた仮説をプランナーに壁打ちしました。

作成したカスタマージャーニーマップの一部

仮説をブラッシュアップしていくなかで、求職者がメッセージ送信時に感じる負荷を物理的負荷と心理的負荷に分類して、さらに仮説の確度を高めていきます。

2種類の負荷を可視化し、以下のようにまとめました。
 

  • 物理的負荷
    • 返信をするのが面倒
    • 返信内容を考える時間、返信文を書く時間がとれない
  • 心理的負荷
    • 転職に対する温度感をどう伝えて良いかわからない
    • 話だけを聞きたいだけなのに、面談するのは失礼にあたらないか
    • テンプレートをタップしたら、すぐに送信されてしまうのではないか

仮説の確度を高め、検証を繰り返し、改善した返信率

こうした仮説や検証をもとに、大きく4つの変更を行いました。
 

  1. テンプレートを選択しても、いきなりメッセージが送信されないことが分かるデザインに変更
  2. 面談のハードルを下げるメッセージをツールチップで表示
  3. テンプレートの表示する階層を1つあげて、求職者がテンプレートを認知しやすいものに変更
  4. 一般的なメッセージ入力のメンタルモデルと合ったインタラクションに変更

これらの変更を実装しリリースした結果、返信率が改善しました。返信率が改善したのは、以下の要因が大きいと思っています。
 

  1. ABテストの結果から「求職者が返信をしない要因」の仮説を立てられた
  2. 求職者の声に基づいた課題を可視化し、確度の高い仮説を立てられた
  3. 新型コロナウィルスの流行に伴い、オンライン面談の需要が高まっているという市況感を捉えたテンプレートを用意することができた

おわりに:ユーザーに寄り添った体験を提供するために

ビズリーチのアプリグロース施策について、具体的な内容を紹介してきました。

施策を通じて、デザイナーとしてアイデアや施策の裏にある課題を特定し、仮説の確度を高めていくこと。他サービスの事例を参考にするのではなく、そのデザインが使われる背景を理解して、自社サービスに置き換えると何が課題なのかをきちんと特定していくことが大事だと感じました。

これから、アプリのグロースに携わるデザイナーとして3つの側面から事業に貢献していきたいです。

1つ目は、ユーザー体験に寄り添うことです。電車での移動や、エレベーターでのちょっとした時間で、生活の一部としてストレスなくアプリを使っていただくために自然な体験を作ることが重要です。

デザイナーはユーザー中心で考えるため、誰よりもユーザーのインサイトや行動を理解し、意見できる存在でなければいけないと思います。

2つ目は、課題を可視化して議論を加速することです。チームでサービスを作っていくうえで、目線を合わせることは必要不可欠になります。見えないものを可視化することはデザイナーの強みです。

最後に、プロトタイプで施策の解像度を上げて、施策の確度を上げることです。素早く、精度の高いプロトタイプを作成し、ユーザー体験の効果検証に貢献していくことが重要です。

これらを実行しながら、デザイナーとしてユーザーに寄り添い、価値ある体験を提供できればと思います。

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