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誰のためのUXリサーチ? ——「UX DAYS TOKYO 2019 Conference」参加レポート vol.2

こんにちは、UXリサーチャーの舘山です。

デザイン組織内の「エクスペリエンス・センター」というチームで、サービス/プロダクトの利用体験向上に関するナレッジを実践/収集/共有しながら、部署を横断して事業・ビジネスを前進させるための活動をしています。

そのなかでも特に私は、既存事業におけるNPS®(ネット・プロモーター・スコア)の活用推進を担当しています。NPSを担当するまでの経緯や思いについては以前こちらに書いたのでぜひご覧ください。

前回の記事では、徳永から新規事業におけるプロダクトの体験設計に関する記事をお届けしましたが、私も彼と共に「UX DAYS TOKYO 2019」に参加してきました。

今回は既存事業に対してのUXリサーチで気をつけるべき点について学んだことを、関連するセッションの内容とあわせてご紹介します。

UXリサーチに必要な2つのマインドセット

私が紹介するのは、Erika Hall氏の「Get Your UX Research Questions Right」というセッションです。

セッションでは、UXリサーチの効果を最大にするために気をつけるべきことや、チームとして持つべき考え方/マインドセットの話が語られていました。

特に私が気になったのは、2つのトピックです。

1. 手段ではなく、目的から考える

  • UXリサーチは正しい意思決定をするためにおこなう
  • 良い意思決定のためにはリサーチの目的を決める必要がある
  • 目的の次に問いがあり、最終的に意思決定がされるという順番で考える必要がある

2. ユーザーに問う前に組織に質問する

  • リサーチ結果を意思決定に活用するには、組織の意思決定のプロセスを理解しておく必要がある
  • そのため、ユーザーに質問する前に「私の会社はどのように意思決定しているのか」を問うべきである

停滞していたリサーチを前進させたきっかけ

冒頭に書いたとおり、私は社内の既存事業でNPS活用プロジェクトを進めています。

数年前からNPSデータの取得と分析をおこなっており、収益との関係性がある程度分析できたため、具体的に施策に活用するフェーズに進んでいました。そこで私は、ユーザー体験をさらに詳細に把握するため、追加のユーザーリサーチを準備していたのですが、プロジェクトはそこで停滞してしまうことになります。

セッションを聞いたあと私は、「もしかして、このプロジェクトの目的を間違えて認識しているのかもしれない」と思いました。

プロジェクトメンバーに改めて質問をして整理してみると、ユーザー体験の詳細よりも、ユーザー体験とプロダクト上の数値の関連性を気にしていました。さらに話を聞いていくと、その事業では意思決定のプロセス上で費用対効果を特に重要視するという組織上の背景があると分かりました。私たちがこのフェーズですべきアクションは、体験の深掘りをする前に、現在のデータから仮説を立てることだったのです。

私は、リサーチ上取るべきと思っていたアクションに気を取られ、リサーチの目的がお互いに擦り合っていないことに気がつきました。

現在は方針を変え、アンケートデータとプロダクトのデータを組み合わせてユーザー体験を改善する仮説を検討し、メンバーで協力してプロジェクトを前進させています。

おわりに

Erika Hall氏はセッションで、リサーチの目的を決めずにリサーチをすることを、こんなたとえ話で説明してくれました。

「もしエイリアンが優れた科学技術で人類を助けたいと思っても、説明しない限り人類にはその意味がわからないので、奇妙なものにしか見えない」と。

今回私はリサーチのプロセスにこだわるあまり、目的を見失うところでしたが、Erika氏のプレゼンテーションを受けて、リサーチの目的と背後にある意思決定のプロセスを問い直し、なんとかプロジェクトを前に進めることができました。

リサーチ手法を学んで実践することは大事だと思います。

しかしそれ以上に大事なのは、リサーチの成果を事業やプロダクトの意思決定に活用してもらい、成功に貢献することです。そのためにはリサーチ目的はもちろん、組織の意思決定プロセスまで踏み込んでヒアリングして、進め方を考え、提案する必要があると改めて実感することができました。

私も“エイリアン”のように思われ、役に立つ機会を失ってしまっていたかもしれません。

今後もリサーチを意思決定に活用してもらうにはどうすればいいか、価値が出るとはどういうことかを考えて、事業推進に役立つ良いパートナー・伴走者として活動していければと思います。

※NPS®は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標です。

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