Visional Designer Blog

イベントデザイナーから見た「SXSW2019」

こんにちは、コミュニケーションデザイン室の田村です。

3/11〜3/13の3日間、「SXSW 2019(サウス・バイ・サウスウエスト)」という海外のカンファレンスに参加してきました。SXSWとは、音楽・映画・技術をテーマにしたテクノロジーとスタートアップの登竜門といわれる祭典です。

ここ数年、ビズリーチは大型イベントに出展したり、ビジネスカンファレンスを主催する機会が増えており、私はコミュニケーションデザイナーとして、「Future of Work」や「Inside Sales Conference」などのカンファレンスのデザインに携わっています。

そんな私に、今回の渡航にあたって課されたミッションは「海外の大型カンファレンスを体験することで、イベントに関わるデザインの知見を持ち帰ること」でした。

この記事では、デザイナー目線でのイベント設計の気づきや、日本で実践できそうな事例をご紹介していきます。

街全体がカンファレンス会場

米国テキサス州オースティンで開催されるSXSWは、会期中になるとダウンタウンのあらゆる建物や空き家が会場に変身します。街を歩けばいたるところで音楽が鳴り響き、テーマの異なるセッションやエキシビションなど、様々なプログラムが同時進行されます。

カンファレンスで体験できる主なコンテンツとしては、以下の3つがあります。

1. トレードショー

企業の出展ブースが体験できるショーです。電通などの有名企業からスタートアップまで、日本企業も出展していました。

2. セッション

講演、発表を聴くコンテンツです。基本的には事前に予約をして参加します。政治からはじまり、デザインやマーケティング、AI、xRなど30種に及ぶ幅広いテーマが扱われていました。

3. 公式会場外のブース

空き家やバーなど、公式会場外のスペースを貸し切った出展ブースです。

4. 音楽や映画

そのほかにも、音楽ライブや映画の試写会、コメディやゲームなど、多様な催しがありました。

「巻き込む力」がキーワード

今回、SXSWに参加して感じたのは参加者を巻き込み、ワクワクさせることの重要性です。会場自体の設計はもちろん、様々な仕掛けや仕組みで体験や交流を促していて、参加者はみな、能動的にイベントを楽しんでいました。

私が今後、イベントデザインをするうえで参考にしたいと思った具体的な取り組みを、6つご紹介します。

1. イベントを最大限楽しむための公式アプリ

SXSWには「SXSW GO」という公式アプリがあります。

SXSWは全貌を把握しきれないほどの大型イベントです。行きたいブースを検索したり、気になるセッションを探して予約しておいたり。1日の行動計画を立てるのに必須アイテムでした。

さらにアプリでは、参加者同士がつながれるネットワーキングの機能があり、お気に入りしたスケジュールから興味関心が近しい参加者をレコメンドしてくれる機能まであり、実際に交流できるようメッセージ機能も備わっていました。

パンフレットも用意されていますが、見ることはありませんでした。

👍 Good Point

・スケジュールや会場が複雑な場合は、参加者を迷わさない独自のアプリやWebサイトがあると便利
・初日のID発券時にアプリの提示を求められる体験設計で、参加者全員がアプリをもっている状態を作れていたのは、マッチングにも有益そう

2. 名刺の役割も担うバッジ

SXSWでは参加者の証として「バッジ」というIDが配布されます。バッジは複数の種類が存在し、デザインが異なります。

私は「インタラクティブ」バッジで参加したためオレンジでした。Music、Film、Interective、Plutinumなどの種類があります。

また、シンボルの矢印部分をスタッフのスマホにかざすと、種類にあわせた会場への入場が管理できる仕組みになっています。

また、会場全体だけでなく、セッションやブースでもバッジをスキャンされ、予約との照会や訪れたブースの企業から後日メールでDMが届くなどの仕組みがありました。

今回、英語の名刺を用意したのですが、出番はほぼありませんでした。

👍 Good Point

・バッジの種類がストラップ部分に書いてあり、ホルダーだけに書いてあるよりも認識しやすい
・懇親会などに応用するときは、参加者の業種業態や参加目的などで色分けすると、話のネタにもなり交流しやすくなりそう

3. 1日1回使えるドリンクチケット

バッジと一緒にドリンクチケットをもらいました。

メインの会場からほど近い野外に設けられた休憩スペースで、ドリンクが無料提供されます。会場中の展示ブースで飲み物をサービスされますが、プロモーションが存在しない休憩スペースの存在は大事。

天気のいい日は人が集い、自然に会話が生まれていました。野外で電源がないためか、長居する人もそこまで多くはなさそうでした。

👍 Good Point

・チケットがあると自然と休憩スペースに足を運び、交流のきっかけがうまれる
・会場の外、できれば屋外にくつろげる場所があると、よりリフレッシュできる
・会場間を歩くきっかけにもなり、エキシビションやセッションなど新たな出会いがある

4. 文化祭状態の会場の柱

会場一体がお祭りのようなSXSW。その雰囲気に拍車をかける「派手な柱」をいたるところで目にしました。

柱に貼られた広告

柱には、参加者や出展企業が自由にステッカーやインフォメーションを貼っており、広告塔のようになっていました。

なかには専用アプリをかざすとARが出現するポスターがあったり、広告ひとつ見てもおもしろい。特に規制もなく、参加回数の多い企業はこの柱を熟知しているようで、柱用にデザインしたテープをぐるぐる貼っていました。

テープ状の広告も貼られていました

👍 Good Point

・これ日本じゃ真似できないな‥‥と思ったら、フィルムで柱自体は保護されていました。工夫ひとつで会場装飾の幅が広がっていることに感動
・規制せず、参加者や出展企業をうまく巻き込んで、みんなで楽しもう、盛り上げようとする気概が伝わってきた

5. 事前共有の資料&オンライン質疑

セッションによっては、冒頭で資料のURLが共有されていました。日本ではスマホのシャッター音が消せないこともあり、スライドを撮影するシャッター音が気になりがちですが、資料が提供されるセッションでは撮影する人はいませんでした。

また、講演内容へのリアクションや質問がアプリでリアルタイムに送れるセッションもあり、臨場感を演出できそうだと感じました。特に日本では、質疑応答も消極的になりがちなので、相性がよさそうです。

👍 Good Point

・講演を妨げる要因を軽減し、体験向上につながる工夫が感じられた
・質疑応答はsli.doなどを使って代替するのもよさそう

6. 人気の展示ブースの秘訣は「一緒に創り出す体験」

人気の展示ブースは、参加者が体験できる仕掛けが多く用意されていました。

トレードショーの入り口にあったブースでは、参加者へのアンケートを実施するだけでなく、結果を可視化できるように、カラフルな糸が用意されていました。参加者が自分の意見に合った色の糸を選び、同意するポイントに糸をかけると、鮮やかなグラフが出現する仕組みです。

SONYのブースは、他を圧倒するクリエイティビティとテクノロジーで人気でした。GIFアニメの撮影スペースや、クラブ型の楽曲生成AIアシストのブースなど、説明よりも体験を重視しているようでした。

「拡散」で工夫していたのはMOOのブース。印刷サービスを提供する会社です。

用意されたカードに自分で単語をひとつ書き、カードの写真をSNSにハッシュタグ付きで投稿すると特典がもらえました。拡散して特典がもらえる手法は定番ですが、拡散がしやすいように特設の撮影ブースが用意されていたことに感動しました。

そもそも拡散という行為に対してハードルが高く感じる人も多いなか、拡散してほしいことが一目瞭然で、かつ拡散欲を掻き立てる工夫がされていました。展示側の工夫次第で拡散のハードルを下げることができるという点で、参考になりました。

👍 Good Point

・説明や展示だけでなく体験ができると、楽しんでいる様子が伝わり人が集まりやすい
・ハードルが高い拡散なども、ひと工夫すると「ワクワク」に変えられる

おわりに:イベントでデザイナーが貢献できること

私はこれまで、国内のカンファレンスにたくさん参加してきました。イベントにおけるデザインの重要性や役割について自分なりの考えがふんわりとあるなか、SXSWに飛び込んでみたことで、その考えを確信に変えられたことが一番大きな収穫でした。

イベントの成功や満足度は、参加者がいかにワクワクできるか、期待を超える体験を持ち帰れるかにかかっています。

そのなかでのデザイナーの役割は、「情報の魅力を最大化させること」「参加者の行動を喚起させること」だと思っています。実際にSXSWでは「ワクワクする」体験がそこら中で起こっていましたし、テクノロジー、音楽、映画など幅広いジャンルが混ざり合った状況にも関わらず、参加者が能動的に楽しめる環境が用意されていました。

今回の知見を活かし、今後はより広い視点で、参加者の体験向上にもっと踏み込んだデザインにチャレンジしていきたいです。

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