Visional Designer Blog

デザイナーと経営者で事業をつくる —— 「B×D meetup vol.2 デザインで飲食事業をアップデート」イベントレポート

こんにちは、2018年新卒入社デザイナーの村上隆紀です。

2月27日に「Business Design Meetup Vol.2 〜事業を知り、デザインを考える〜 デザインで飲食事業をアップデート」(以下、B×D meetup)というイベントを開催しました。

「事業会社のデザイナーとして、先駆者から学びを得たい」というビズリーチのデザイナーの想いから生まれたB×D meetup。第2回目は「デザイン × 食」をテーマに、飲食業界においてデザイナーと経営者が協力して事業を作っている2社に登壇いただきました。

それぞれの会社において、「デザイナーと経営者がお互いを信頼しあい伴走することで、どんな魅力的な事業づくりができるのか」「そのためには、経営者とデザイナーはそれぞれどのようにコミュニケーションを取っているのか」などについて語っていただきました。

デザインに興味のある経営者の方々、はたまたもっと経営者の視点になって働きたいデザイナーの方々にお読みいただき、何かのヒントになれば幸いです。

スピーカー紹介

ゲスト:山﨑竜馬(株式会社スマイルズ/レストラン事業部 事業部長)

飲食コンサル会社にて店舗開発、店舗経営を経験。その後、転職した会社で新業態を開発、店舗の立ち上げ業務に従事。2013年スマイルズへ中途入社。Soup Stock Tokyo事業部を経て、「100本のスプーン FUTAKOTAMAGAWA」や中目黒高架下のレストラン「PAVILION」の立ち上げを担当。現在、レストラン事業部 事業部長として「100本のスプーン」および「PAVILION」の事業を統括する。

ゲスト:木本梨絵(株式会社スマイルズ/クリエイティブ本部アートディレクター)

和歌山県出身。武蔵野美術大学空間演出デザイン学科に入学。
在学中はインテリア事務所Wonderwallでミズノのコンセプトストアの立ち上げに参加。

2015年スマイルズに新卒入社。Soup Stock Tokyo、100本のスプーンの店舗経験を経て、クリエイティブ本部へ異動。主に外部案件の企画、アートディレクション、デザインを行う。
社内ではPAVILIONの立ち上げに関わり、現在同ブランドのデザインや企画を担当。

ゲスト:石渡康嗣(株式会社WAT/代表取締役)

さまざまな店舗開発・運営に携わり、2013年にWATを設立。行政やディベロッパーと連携しコミュニティビルディングを行うカフェ(大崎café&hall OURS等)や、地域になくてはならない手作りな店(蔵前Coffee Wrights、ひばりヶ丘Commma,coffee等)など、多様な切り口で場の運営を実践する一方で、クラフトな食のブランドの日本上陸(「Blue Bottle Coffee」「Dandelion Chocolate」 )や、千葉県大多喜町でボタニカルブランデーをつくる「mitosaya薬草園蒸留所」にも参画。

WAT 石渡さんによるプレゼンテーション

具体的なお仕事の紹介

僕がやっている仕事は、「健全な食を通じて街を明るくする」ことです。

もう少し詳しくいうと、「場」をつくる仕事ですね。「場」というものを因数分解すると、物理的な空間という意味の「スペース」、その空間でどういう人が動くかの「コミュニティ」、その人々がどういう仕事をするかという意味の「クラフト」という3つの掛け合わせになるかなと考えています。

Coffee Wrights。コーヒーを自分たちで焙煎をして、お客様に届けています。三軒茶屋、蔵前、表参道などに店舗があります。

ダンデライオン・チョコレート。蔵前で立ち上げたチョコレートのブランドで、チームビルディング、店舗開発をしています。伊勢の外宮、鎌倉駅、京都の町家などに店舗があります。

仕事で意識しているキーワード

僕が仕事をするうえで意識してきたキーワードをいくつか紹介します。

まず、「Organic Growth」。計画通りに進むのではなく、そのときどきの感覚を大事にしながら一緒に仕事をし、有機的に成長するという意味です。3年後どうなるかは一切考えていません。

次に、「Down to Earth」。地に足をつけて仕事をしましょうということです。 風呂敷を広げすぎない。やったことのないことを、さもやれてるかのように表現するのは、我々の会社にはふさわしくないと考えています。

最後は、「失敗を積み重ね、仮説検証を積み上げる」。 成功はよく見ると失敗の積み重ねです。大体の物事は基本的にジグザグに進んでいくので、それに合わせて余力を持もたせつつ事業を進めています。やらなかったことは怒りますが、やって失敗したことには何も言いません。

社内のコミュニケーションが他の会社の10倍!?

最後に、仕事の具体的な進め方について、ご紹介します。WATの社内には、統一のオペレーションがないので、お互いに喧嘩にならないやり方を日々考えています。運営のフェーズにおいては、日報を通じて各チームが何を考えているかキャッチしたり、マネージャー層と週に15分ずつ1on1したり、OKRベースで目標の進捗管理をしたりしています。

とにかく社内のコミュニケーションを、数字や会話、日報や議事録でとる。そして、目標に向かってそれぞれに考えてもらうことを大切にしています。自分から何か言うことはほとんどありません。ミーティングの議事録に関してもチェックするのは「やったかやらなかったか」だけです。

スマイルズ 山﨑さんによるプレゼンテーション

6年前スマイルズに入社したとき、実はデザインが大嫌いでした。

スマイルズに入社する前は経営者とデザイナーは発注者と受注者の関係性で、デザインは経営におけるアイテムという考え方でしたが、スマイルズに入社し、6年かけてデザインにどっぷり浸かりながら事業を進めてみて、僕のなかで事業とデザインの関わり方におけるヒントを見つけました。今では、スマイルズにおけるクリエイティブは、事業の価値づくりの伴走者だと思っています。

今回はそんなヒントをかいつまんでご紹介したいと思います。

業態ではなくストーリーをつくる

スマイルズは事業をつくる時、客数×客単価で表せるような業態をつくるやり方をしません。まずストーリー、つまり「お客様にとっての体験価値」をつくります。

スマイルズが運営するファミリーレストラン「100本のスプーン」で行なった、「父の日のカンパイ」という企画があります。

父の日にご来店いただいたお客様に、サービスでビールとビールを模したマンゴージュースをご提供し、父子でカンパイ、白い口ひげをつけてもらいます。その様子を写真に撮って見開きアルバムの左側に貼ってお渡しします。そして大人になったら今度は本物のビールでカンパイし、アルバムの右側に貼ってくださいね、という想いを込めた企画でした。

「お父さんが休日ゴルフに行って遊んでくれない」といった課題に対して、「お父さんが来てくれたら無料!」というような直接的な解決策ではなく、ワクワクする状況・体験を通じて、「お客様の記憶のなかに、引き出したい1ページをつくる」ことをゴールにしたプロジェクトです。私たちはこれを「状況のデザイン」と呼んでいます。

他の例としては、「サンタのおてつだい」というクリスマス限定のコースがあります。企画の内容としては、コース料理と一緒に絵本仕立てのトレイマットが提供され、子供たちがオリジナルのストーリーの主人公となって料理を楽しんでいただくものです。コースの最後にはストーリーの中で手に入れたアイテムを使って、お子様に真っ白なケーキをデコレーションしていただきます。

クリスマスコースを楽しんでくださった当日に1年後の予約をしてくれるお客様がいたらいいなあと思って始めましたが、結果として3年目でリピート率は40%を超えるコースになりました。

状況のデザインのアプローチとして、飲食領域を超えたワークショップの設計なども行なっています。「コドモたちとみんなでつくる公園プロジェクト」というワークショップでは、25人のコドモ建築家を募集して、プロの建築家やミュージアムエディケーターの方々と一緒に「どんな公園をつくって、誰と、何をしたいか」ということを考えながら公園の設計しています。

100本のスプーン あざみ野ガーデンズで実施している「コドモたちとみんなでつくる公園プロジェクト」

スマイルズにおけるクリエイティブは、事業の価値づくりの伴走者

スマイルズのクリエイティブチームは「プロジェクトの根っこは何か?」から考えてくれるので、自分の視座より高いところで提案してもらっていると感じます。スマイルズにおけるクリエイティブは、事業の価値づくりの伴走者です。

オーダーに対して「なぜ?」を0までとことん遡ってつくるため、表面的なスタイルではなく姿勢が固まり、お互いに納得のできる仕事ができています。時にはオーダーしていないことを提案されることもあります(笑)一緒に働いていて感じるのは、センスは知見の数や深さだということ。僕が3しかなかったものを10で打ち返してくれて、その10にも一つ一つ軸足がある状態で提案してもらえるので、心強いパートナーです。

パネルディスカッション

ここからは、先ほどプレゼンされた石渡さん、山﨑さんに加えて、スマイルズでアートディレクターを務める木本さんにも登壇していただき、ビズリーチの田中が質問させていただく形式で、パネルディスカッションを行いました。

事業成長において、デザイナーが果たす役割とは?

田中:
世の中的にデザインの対象が目に見えるものだけでなく、体験やブランドなどに広がっていくなかで、飲食事業においてデザインはどう扱われているのでしょうか。

スマイルズ 山﨑さん:
スマイルズでは、「お客さんとブランドの接点をどう作って行くか?」 を大切にしています。「お店に来たこどもとママの会話が、どんなトーンで息遣いをしているのか?」まで想像し、業態ではなくお客様に信頼してもらえるブランドをつくる。

結果として、100円のものを80円ではなく、150円、200円に感じてもらい「このブランドならこれだけ払ってもいい」と思ってもらえるために、デザイン(状況のデザイン)が重要だと考えています。

スマイルズ 木本さん:
デザイナーは、事業部にとって口うるさい相棒だと思ってます。「やるけどwhy?」の精神で、「なぜ?」を問い続けることをいつも考えています。

例えばチラシ製作を依頼されたとき、チラシをつくる傍ら「そのチラシ、本当に必要?」と常に問う姿勢でいます。「もしかしたらそれってチラシの問題じゃなくて、料理変えたほうがよっぽどいいんじゃないですか?」といった話もします。

慣れない人にとってはやりづらく感じるかもしれないですが、「そもそもこれってなんだっけ?」を一緒に考えるのが、スマイルズにおけるデザインです。

スマイルズ 山﨑さん:
正直初めは「この小娘が」と思ってました(笑)

しかし3くらいのアウトプットを期待してたところを10や15で打ち返されるので、今は信頼してアウトプットを確認するだけになってきました。

田中:
石渡さんはいかがですか?

WAT 石渡さん:
デザインは課題解決の方法ということで、課題をややこしいととらえずに「これは石渡の言っていた課題だな、よし解決してやろう」と乗り出してくれるようにコミュニケーションを取っています。

それを紐解くと、「いらないチラシをつくる」問題もあるあるです。

上から「それは要らない」と言っても一生育たないので、ひたすら「なんで必要?」を問い続けます。3回は「なぜ?」を聞くくらい。指示レベルのことは一切していません。若手にいうのは現場のマネージャーに任せています。

田中:
おふたりとも、現場のデザイナーに権限を委譲されているんですね。

自社でのデザイナーの採用基準とは

田中:
デザイナーを採用する際の基準はありますか?

スマイルズ 木本さん:
「肩書きにとらわれずなんでもやる人」です。

私はグラフィックデザイナーという肩書きではありますが、お客様の座る席、トイレのアメニティ、三角コーナー、お皿、カトラリー、接客まで全てデザインしています。Illustratorでデザインをする仕事は1割くらいです。自分のことは、デザインが得意な何でも屋さんだと思っています。

WAT 石渡さん:
現状自社でデザイナーは採用してないので、パートナーをどう選ぶかですね。

創業当初、2004年頃に勢いでカフェを作ったらミスマッチな空間ができてしまったことがありました。当時は「最高のカフェだ!ずっとやり続けよう」と思っていたんですが、気づいたときには5年が経っていました。そこからクリエイティブに対して、とても気をつかうようになったんです。

実際にクリエイティブをお願いすることになったら、まずコンセプトについて、現場の方々に腑に落としてもらうことを大事にしています。きちんと意図がすり合えば、あとは予算の制限くらいで、自由にやってもらっています。プロジェクトに合った最高の才能を持つ、最適なデザイナーさんにお願いするようにしています。

もし自社で採用するとしたら、上位コンセプトと現場をつなぐ役割の方。Illustratorなどは、多少使えた方がいいくらいです。

田中:
WATさんはアウトソース、スマイルズさんはインハウスでデザインされていますが、両者とも上流からデザイナーが関わっている点で共通していますね。

飲食事業におけるデザイン、ブランドの未来

田中:
最後に、非常に難しく大きなお題ですが、「飲食事業におけるデザイン、ブランドの未来」についてお話をいただけたらと思います。

スマイルズ 山﨑さん:
スマイルズの場合、切り口は「食」ですが、結局売りたいもの、ご提供したいものは「ライフスタイルにおける生活価値の1ページ」です。100本のスプーンのビジョンにも「6歳以下の子育て中のママにおける圧倒的支持」「コトと意味を持って帰っていただけるブランドとして飛躍していきたい」というように、「食」という言葉は入っていません。

体験価値に対して、お金をお支払いしてほしい。これからも、もっとお客さまとブランドのタッチポイントを深掘りしていきたいです。

WAT 石渡さん:
我々の場合はあえて「食」に規定しています。

「健全な食は、提供する意味がある」と考えていますが、大量生産・大量消費のなかで健全なものをつくるのは東京では難しいと思っています。そのためやや地方にシフトしているところがあります。このゴールにたどり着くために、試行錯誤をしながら事業展開をしていきます。

田中:
石渡さん、山﨑さん、木本さん、ありがとうございました。

おわりに

デザイナーと経営者が伴走することで生まれた魅力的な事例と、両者の関係性やコミュニケーションについてお話いただきました。

今回ご登壇いただいたスマイルズさんやWATさんのように、デザイナーが経営者と同じ目線で事業づくりをする会社が増えてきています。機能的には類似したサービスが溢れる現在だからこそ、デザイナーと経営者で伴走しながらお客様の体験から考えることが、事業成長の大きなカギとなるように感じました。

次回以降のBxD meetupもご注目いただけたら幸いです。

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ありがとうございました。

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