
デザインの品質を定量化する「コミュニケーションデザイン評価モデル」
株式会社ビズリーチにて、コミュニケーションデザイン部の部長を務めます三井です。 コミュニケーションデザイン部では、デザインの観点を定義し、デザイン品質を定量化する「コミュニケーション評価モデル」を運用しています。今回はコ […]
「キャリトレ」は2022年12月をもってサービス終了しました。
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この記事は「Service Designer’s Advent Calendar 2018」の、17日目の記事です。
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ビズリーチが運営する、挑戦する20代の転職サイト「キャリトレ」。
読者のみなさんのなかには、広告を通して知ってくださっている方や、サービスを利用したことがあるという方がいらっしゃるかもしれませんね。
そんな「キャリトレ」ですが、実は今年の4月まで「careertrek(キャリアトレック)」というサービス名で運営していました。
テレビCM公開のタイミングで、サービス名を変更し、ロゴも刷新していたことをご存知でしたか?
今回は「キャリトレ」のロゴリニューアルに携わった、ブランディングや広告まわりのクリエイティブディレクションを担当している、ビズリーチ コミュニケーションデザイン室 / ブランド戦略室の室長を務め、クリエイティブディレクターとして活躍する 三井 拓郎(みい たくろう)と、ビズリーチが運営する数々のサービスのロゴリニューアルに携わってきた、ニューヨークを拠点にご活躍されている「FLYING MACHINE」のクリエイティブディレクター 遠藤大輔(えんどう だいすけ)さんに、「キャリトレ」ロゴリニューアルの舞台裏についてお話いただきました。
—— まずは、お二人が現在の仕事にたどり着くまでのキャリアを教えてください。
遠藤:高校生の時に父の転勤で米国に移動し、ニューヨークにある美大「スクール・オブ・ヴィジュアル・アーツ」に進学しました。
卒業後はデザインファーム「Pentagram(ペンタグラム)」に入社して3年間ほどデザイナーとして働きました。
その後、2年ほどフラフラした時期を経て、2004年に現在所属している「FLYING MACHINE」に入社しました。以降プロジェクトによってグラフィック・デザイナー、アートディレクター、そしてクリエイティブディレクターと何足も草鞋を履き分けながら活動しています。
結婚して日本にもどったり、ボランティアをしたりとブランクのある時期もありますが、基本的に「FLYING MACHINE」がベースになっていますね。
2006年からは美大で教える仕事もしていて、現在はブルックリンにある「プラット・インスティチュート」という美大でコミュニケーション・デザインを教えています。日本に帰国していた間、「武蔵野美術大学」で2年間ほど「価値」やその「文脈」を教えるデザインのクラスを教えていました。
三井:僕は金沢美術工芸大学を卒業後、大手家電メーカーの広告制作会社に入社して7年、
外資系広告代理店で3年、主にマス広告の世界で10 年キャリアを積んできました。その後、縁あって、語学ソフトウェアを開発する外資系企業に転職して、いわゆる広告業界から事業会社へ環境を変えました。そこでクリエイティブマネージャー / マーケティングマネージャーという立ち位置で、あらゆるサービスや店舗、WEB、コーポートブランディングなどのデザイン責任者として4年半ほど働きました。
その後、ビズリーチに登録をしていたところ、ビズリーチから声がかかり(笑)。ビズリーチに転職して、4年間ほど働いています。
当時のビズリーチは、社員が300名弱くらいでした。(現在の社員数は、1304名)
—— ニューヨークを拠点にずっと活動されていた遠藤さんですが、どんなきっかけがありビズリーチのお仕事に携わることになったのでしょうか。
遠藤:10年ほど前、まだビズリーチのオフィスが神田の小さなビルにあった頃、友人の紹介で南さんとお会いしました。近くの食堂で一緒に親子丼を食べながら、ビズリーチがどんなふうに転職市場を変えていこうとしているのか、南さんのお話をお聞きしたことを覚えています。その後しばらくして「ビズリーチのロゴを作ってくれない?」と依頼いただいて、そこからのお付き合いですね。
そのときにデザインしたビズリーチのロゴを、10年間ずっと使っていただいています。
ビズリーチのロゴをデザインした後、しばらく音信が途絶えていたのですが、2013年にFacebookを始めて、そこでまた南さんと繋がり、声をかけていただいて、ビズリーチが運営するサービスのロゴ制作のお手伝いをさせていただくようになりました。この5年間で、約10個ほどサービスのロゴデザインのお手伝いさせていただきました。
遠藤さんが携わってきたビズリーチサービス ロゴの一部
—— 三井さんと遠藤さんが一緒にお仕事するようになったのはいつからですか?
三井:「ビズリーチ・キャンパス」のロゴを制作するタイミングですかね。
南さんに「一緒に話を聞いてほしい」と呼ばれて、遠藤さんをご紹介いただきました。
遠藤さんは普段ニューヨークで活動しているので、Skypeを通してずっとコミュニケーションをとっていたのですが、今年の2月「キャリトレ」のロゴリニューアルが決まった際、初めて直接お会いして、南さんと一緒に3人でキックオフミーティングを行いました。
遠藤:Skypeで何度もお話していたので、全然初めてな気がしませんでしたね(笑)。
三井:今までは南さんが遠藤さんに依頼して、それぞれの部署と連携して制作いただくことが多かったのですが、僕が今の立場になってからは、複数のブランドをディレクションするようになったので、僕もがっつり入らせていただいて、お仕事をご一緒することになりました。
—— 「キャリトレ」のリニューアルが決まり、今回も遠藤さんにロゴの制作を依頼することになった理由はありますか。
遠藤:「キャリトレ」のサービス名を検討されていたタイミングだと思うのですが、南さんから「カタカナのロゴってどう思う?難しいよね?」と相談いただきました。
Pinterest を介して、南さんが気に入っているカタカナロゴをいくつも共有してくださったのですが、それに対して、「たとえばこういうカタカナロゴってどうでしょう」という形で僕がサンプルを返す、といういうブレスト(?)を重ねる中で、ロゴ制作のご依頼をいただきました。
三井:そもそも、「キャリトレ」のリニューアルの経緯なんですが、事業の成長に合わせ、テレビCMを行う話になったのですが、もともとのサービス名である「careertrek(キャリアトレック)」の愛称が「キャリトレ」だったので、親しみのあるサービスとして世の中に浸透してもらうために、愛称である「キャリトレ」を正式名として採用することになりました。
それに伴って「キャリトレ」というカタカナロゴが必要になって、ただ「キャリアトレック」は英語でも問題なかったのですが、「キャリトレ」は英語で表現できなくて。
そこで、遠藤さんに今までの知見や経験をお借りして、ロゴのリニューアルをお願いしようという話になりました。
ただ、社内のデザイナーからもロゴリニューアルにチャレンジしたいという声があったので、今回は合同でコンペのような形式で、遠藤さん、社内デザイナーの岩瀬、浅野、そして僕の4名でアイデアを出し合いました。
—— どのようにロゴの制作を進めていきましたか。
三井:まずはターゲットを明確にするところからはじめました。
「キャリトレ」のターゲットである今の20代はどのような傾向があるのか、転職サービスの「ビズリーチ」を使っている人たちとはどのように違うのか、事業部や広報がまとめてくれた分析データを確認しながら話し合い、イメージを膨らませました。
「キャリトレ」のロゴ案、全6冊
遠藤:「キャリトレ」は強豪ひしめくマス向けのサービスになるので、差別化が難しいと話していました。ブランドのコンセプトを絞りすぎると、ターゲットが狭まってしまいますし、逆にコンセプトを広げると、デザインもありきたりのものになってしまうというジレンマがありましたね。
三井:最初、遠藤さんは元々あったキャリアトレックのシンボルマークを活かした形で提案してくださっていたんですよね。
—— コンペで沢山のロゴのアイデアが出たと思うのですが、最終的にどのような決め方をしたのでしょうか。
三井:遠藤さんや僕がプレゼンをして、ステークホルダーの意見を聞きながら、最終的には南さんに決めていただきました。
ロゴタイプとシンボルロゴがあるんですが、ロゴタイプはすぐに決まって。南さんが判断する時、響きの良い言葉や濁点などのつく強い言葉を大事にされているのですが、「キャリトレ」は濁点がなく強さがないので、すごくそれを気にされていて
なので選んだロゴタイプは、「キ」と「リ」の上下が強く飛び出る形で表現しています。
遠藤:「キャリトレ」のカタカナを普通に組むと、小さな文字の関係上「キャ」で一区切りになってしまい、後半の「リトレ」が目立ってしまいます。「リトレ」とは絶対に読ませたくない……という、かなり明確な南さんからのリクエストがありました。「リ」で一度区切って読んでもらえるように、アクセントとなるような形を意識して制作しました。
あと、南さんとしては「キャリトレ」を都会的で洗練された印象にしたいという意向があったのですが、カタカナを使うとどうしてもポップなイメージになってしまって苦労しました。最終的に、要素を極限まで削ぎ落として、幾何学的で形を処理することで、ニュートラルな印象になるようにデザインしました。
三井:ただ、シンボルロゴがなかなか決まらなくて苦労しました。
「キャリトレ」のビジョンに『「出逢い」「気づき」「学び」の場を提供し、キャリアの軸形成を助け〜』とあるのですが、この「出逢い」「気づき」「学び」を一言でいうと「ディスカヴァリー (discovery) 」という言葉にできると思う……という提案をいただき、ちょうどこちらから提案していた案の中に、『ダイヤの原石』をモチーフにした案がありました。
この『ダイヤの原石』『キャリアの進路』『ディスカヴァリー』をくっつけて考えたんですよね。
それでシンボルロゴの方向性は決まったので第3回目以降の制作や提案は遠藤さんにお任せして、制作を進めていただきました。
遠藤:全部で6回ほど提案を繰り返すという、なかなかの難産でした。
ご提案した「ディスカバリー」というコンセプトや「羅針盤」というモチーフはすぐに気に入っていただけたのですが、そこに三井さんの「ダイヤの原石」というアイデアが加わってようやく形になりましたね。コンペという形でしたが、一緒に作り上げた形になってとても良かったです。
三井:遠藤さんの案ですごく共感したのは、『ダイヤの原石を発見する』というストーリーでした。ダイヤの原石そのものを表現するのではなく、羅針盤の中にダイヤが隠れているという、図と地の関係性の表現にすごくこだわってくださいました。
そこがとてもコンセプトにもあっていて、良いなと思ったんですよ。すごく気に入っています。
「キャリトレ」新ロゴ概要
「キャリトレ」の新たなロゴは、ダイヤモンドと羅針盤を組み合わせたデザインです。羅針盤は、目指すべき場所を「発見する」ための存在であり、進むべき道に迷ったときに確認するものでもあります。羅針盤に示されている東西南北の方向からは、「どこにでもいける」という可能性を感じ取ることもできます。また、キャリアをスタートしたばかりの20代は、可能性を秘めたダイヤモンドの原石のような存在です。「キャリトレ」は、自分の本当の価値や新しい可能性を発見し、新たなキャリアに挑戦するときや進むべき道に迷ったときに必ずそばにいる存在でありたい。「キャリトレ」のロゴには、そのような思いを込めました。
遠藤:『自分の居場所は本当にここでいいのだろうか』『自分がもっと輝ける場所があるのではないだろうか』と、もやもやと迷っている若者に対して、「キャリトレ」というサービスがどういう価値を提供できるのか、考えました。
そのプロセスの中で、「キャリトレ」のビジョンである「出逢い」「気づき」「学び」を「ディスカバリー(発見)」と言い換えることができるのではないかと気がつきました。モヤモヤした迷いを抱いている若者たちに、「キャリトレ」を通して、新しい仕事を見つけ、輝く自分を見つけて欲しいと思いました。それで、「キャリトレ」を象徴するシンボルとして「羅針盤」を考えました。
羅針盤というのは、キャリアトレックの“トレッキング”の部分、山道を歩いていくというコンセプトもガチッとはまります。「キャリトレ」はキャリアというアップダウンのあるいわゆる山道を切り抜けてゆく上での羅針盤であるという、ストーリーが浮かんできました。
幾層にも重なり合うことで、ロゴに思いが込められ、深まっていきました。
「キャリトレ」 ロゴ制作プロセス
—— 遠藤さんは外部からビズリーチのお仕事に携わっていると思いますが、ビズリーチはどんな会社だと思いますか?
遠藤:ダイナミックで、熱量が高くて、真剣で…会社の魅力を考え出すと、沢山出てくるのですが、最終的には3つにまとめられると思っています。
①ビズリーチってすごく『人間味』のある会社だと思います。
南さんをはじめ、誠実で優しい人たちが沢山いらっしゃいます。
それぞれの能力が高いことはもちろんなんですが、「人間味」の部分が本当に意味のあるサービスを創出するドライブになっていると思います。それははHR事業を行っている会社として本当に素晴らしいことだと思います。
②みんな熱量が高く『情熱的』です。一人一人、当事者意識が強く、自分たちがやっていることに真剣にコミットしています。
③『リアル』です。フェイクなものが沢山ある世の中で、ビズリーチは常に自分たちに正直だし、実態のある本物の価値を社会に届けています。
自分の仕事、つまり自分がどんな価値を作り出しているのかって、人生の意味に直結していると思います。ビズリーチは、人を活かしたり、輝かせたりするという、自分らしい幸せな生き方を応援する、素晴らしい会社だと思います。
—— 遠藤さんはビズリーチの様々なサービスのロゴを手がけられていると思うのですが、統一感を持たせる工夫などはされているのでしょうか。
遠藤:すみません、正直、「統一感」はそれほど意識していないですね(笑)。
ビズリーチや、ビズリーチが提供しているサービスには、決してブレない、共通した思いがあるように思います。それは例えば、「誠実さ」や「都会的」という姿勢や、「人はもっと輝けるし、世の中はもっと良くなる」といった希望や願いのようなものです。デザイナーとして、そうしたビズリーチの思いに誠実に向き合っていれば、自然とデザインもブレないものになると思っています。
逆に見た目を合わせようとすると、どうしてもどこかで辻褄を合わせなければいけなくなってしまって、リアルさが失われます。それに、そもそもそれぞれ別々のユニークなサービスなわけですから、統一感を意識するよりも、むしろそのユニークさをきちんと表現すべきではないでしょうか。それが結果的にタイムレスなデザインになってゆくのだと思います。
ビズリーチでは、ロゴデザインのプロセスを、単に機能的なロゴを作るためだけでなく、サービスのビジョンやミッションを形にして確認し合い、チームを団結させるプロセスにしているように思います。デザインの使い方として、とてもレベルが高いと思います。だから、こちらもなかなか気が抜けません。(笑)
—— 今後社内と社外、それぞれどのような関係を持ってデザインしていきたいと思いますか。
三井:僕はいま、どこかの事業部に属しているわけでなく、コーポレートや複数のサービスのブランドディレクションをしているのですが、遠藤さんのお話を聞いて、フィロソフィーなど会社からにじみ出てくるものを可視化するのって、すごくいいなと思っていて。
それが正しく伝わることが、ビズリーチのブランディングに繋がるのではないかと思っています。上辺だけ綺麗に揃えて見せるのではなく、ありのままの自分たちを偽りなく、ビズリーチの良いところを隠すことなく、正しく伝えていきたいと思っています。
次もまた遠藤さんとお仕事をする予定があるのですが、遠藤さんの経験や知見を、このようにお仕事をご一緒することで、僕自身も毎回とても学びが多く、若い社内のデザイナーたちに届けて、デザイナー一人一人やデザイン組織としての底上げを一緒にしていただけたらと思っています。
内部だけで作ってしまうと、独りよがりのものが出来てしまうことがあると考えているので、外部のスペシャリストに入っていただきながら作ることは、すごく大事だと考えています。
—— 遠藤さん、三井さん、貴重なお話をありがとうございました!
取材を実施した日、遠藤さんに『コミュニケーションデザイン』の社内勉強会を行っていただくなど、三井が話していたように、社内のデザイナーにとって知見がたまるのはもちろん、目線が上がったとても貴重な時間となりました。
今後もビズリーチは社外でご活躍するクリエイターさんとも連携して、面白いものづくりに挑戦していけたらと思っています。
遠藤さん、遠方からお越しいただきありがとうございました。