Visional Designer Blog

イベントデザインから学んだ、デザイナーのはたらき方

インターネット事業の会社で働いていても、オフラインのイベントや勉強会に参加する機会はあるでしょう。イベントに参加したときの満足感に寄与する要素はなんでしょうか。コンテンツの内容、受付での対応、申し込みページなど、たくさんの要素がありますが、デザインが果たせる役割はどんなところにあるでしょうか。

今年9月、ビズリーチが主催するビジネスカンファレンス「Future of Work Japan 2018」が開催されました。

「未来の経営と働き方」をテーマに、日本、そして世界から経営者や学者の方々をお招きし、40以上の講演や、企業による展示ブースの設置、ビジネスマッチングの場の提供などを行いました。2日間行われたイベントには、のべ2,000人を超える方々にご来場いただきました。

今回の記事では、このイベントにまつわるアートディレクション、デザインを担当した田村を中心に、Future of Work 2018 実行委員長の小笠原、運営担当の丹羽も交えて、イベントを振り返るかたちで話を聞きました。

イベント運営におけるデザイン、デザイナーの役割や、デザイナーのキャリア像など、イベントを立ち上げるなかで3人が感じたことをお伝えできればと思います。

話してくれたひと

田村なほ美

デザイン本部 コミュニケーションデザイン室 デザイナー。新卒入社3年目。Future of Work 2018 では、ロゴデザインや招待状のデザイン、会場のパネルデザインや導線設計など、ユーザーの接点となる部分のデザイン、ディレクションを担当。

小笠原 大輔

Future of Work 実行委員長。イベントの総合プロデュースや事業としての運営を担う。2011年にビズリーチにキャリア入社。2017年より現職。

丹羽 真由子

Future of Work のイベント運営を担当。見本市主催企業などを経て、Future of Work の立ち上げに伴い、2017年秋にビズリーチに入社。

ビジネスコンセプトと、ブランド構想

―― 今日はお時間いただいてありがとうございます。早速なんですが、実行委員長の小笠原さんから Future of Work の概要を説明していただいてもいいですか?

小笠原:
はい。ひとことでいうと、「未来の経営と働き方」をテーマにしたビジネスカンファレンスです。

ビズリーチは、代表メッセージでも「私たちの時代にあった、新しい『働き方』を創造しています」と書いているように、ビズリーチサービスや、HRMOS(ハーモス)などのプロダクトを通じて採用や人事業務、従業員のパフォーマンス向上を支援してきました。

しかし、「働き方」を変革していくには、まだまだ変えなくてはならない課題が世の中にはたくさんあるし、今はまだ、私たちのプロダクトだけではカバーできない領域もあります。

そういう背景で、新しい働き方を実践している会社やサービスを提供している会社の方々にお声がけして、組織変革や経営変革をはじめとした新しい経営と働き方の未来を一緒に考えて行くイベントを立ち上げました。

具体的には、事例を知るセッション、最新のサービスと出会う展示会、対話をするビジネスマッチングの3つのコンテンツが軸になっています。

メインホールには、朝10時のオープニングアクトから多くの人が

―― 人財や人事関連のイベントって他にもあると思うんですが、どういうところが違うんですか?

小笠原:
オフラインのイベントにテクノロジーを導入することと、イベントの世界観の一貫性です。

既存のビジネスカンファレンスでは、特に出展企業さまと参加者さまの関係構築をテクノロジーでサポートしているケースが少ないと思っています。
解決できそうな非効率な課題がまだまだあるのではないかと思い、ビーコンや Web のマッチングシステムの導入にチャレンジしました。

―― テーマにも合ってますね。世界観のところはどうですか?

小笠原:
立ち上げたばかりのイベントなので、「未来の経営と働き方」なら「Future of Work」と認知していただきたい。

そう考えると、ビジネスコンセプトから申し込みの Web サイト、イベント会場や、微細なクリエイティブまで一貫性があることが大切だと考えました。

―― ちなみに、12月に開催するイベント、「Inside Sales Conference 2018」も近い雰囲気ですよね。あえてつながりをもたせているんですか?

小笠原:
「Future of Work」っていうのは、ひとつのプロジェクト名でもあるんです。

「未来の経営と働き方」というテーマだと広いので、Inside Sales だったり、事業承継だったり、採用や組織だったり‥‥。ひとつひとつの新しい経営スタイルや働き方のテーマで分科会を開催していく計画です。

―― イベントであり、ブランドなんですね。そういう構想があったのもクリエイティブに力を入れた要因ですか?

小笠原:
そうですね。「Future of Work」をブランドとして機能させたいという構想は当初からありました。

なので、ブランドのコンセプトを作っていくところからデザイナーの田村さんが一緒に考えてくれていました。

ビジネスコンセプトから生まれたクリエイティブ

―― 田村さんはどういうきっかけでプロジェクトに入ったんですか?

田村:
はじめは、私が所属する「コミュニケーションデザイン室」にイベントのロゴ制作依頼があったのがきっかけです。デザイナー何人かでコンペ的に案を出しあうことになって、小笠原さんにヒアリングさせていただきました。

最初は、未来とか変化とかそういうキーワードからロゴを作っていったんですが、こじつけのようなロゴになってしまって。

初回の提案はあまりうまくいかなかったんです。

丹羽:
全員が、100%は腹落ちしてなかったよね。
いいんだけど、もうちょっと見てみたいってなって。

田村:
それで、もう一度、ビジネスコンセプトとか、未来の経営、働き方のようなエッセンスを抽出して考えを深めていきました。

最終的には「細胞」っていうキーワードにたどり着いて。

細胞の変化は、生き物が生まれてから進化していく過程になくてはならない要素で、根源的なものです。時間とともに変化し、経営や働き方が進化していくという要素の象徴になると思って、コンセプトの軸に据えました。

生き残るために分裂して変化するとか、何かと何かが結合して、新しい価値を生み出すとかいろいろなアイデアを表現できました。

デザインコンセプト資料の一部

―― オープニングの映像にも印象的に出てきますよね。

田村:
そうですね。映像では、コンセプトをきちんと伝えるために字幕もつけました。ライディングの監修は社内のコピーライターにお願いをしています。

イベントのオープニング映像

―― ロゴの色合いも印象的です。有機的なグラフィックとマッチしていて。

田村:
これは一緒に提案したデザイナーのアイデアを融合することになったんです。

夜明けをイメージしたグラデーションになっていて、物事のはじまりとか、変化・改革に対する決意を表現しています。イベント会場の照明にもこの色を使って時間帯で色合いを変化させたりしました。

社内のデザイナーが集まっての提案だと、アイデアのコラボレーションができるのもいいところだと思います。

デザインコンセプトはフレキシブル。適応を表す。

照明も時間帯によって色が変化

丹羽:
今回、イベントが無事に終えられたのは、デザイナーのチカラが大きいと思っています。

会場に入ったときの、わーすごい!っていう感覚や雰囲気、特別感や満足感を出すっていうのはデザイナーだからこそできる部分も多分にあって。

小笠原:
登壇者の方々も含め、来場者の方がSNSにたくさん写真をあげてくださって。そういう面でもクリエイティブのチカラを感じました。

本気でぶつかり合って気づいたこと

―― ロゴの依頼がきっかけっていうことだったんですけど、挑戦してみようと思ったのはどうしてなんですか?

田村:
もともと、自分のキャリアを考えていくにあたって、「デザイン × 何か」のように、スキルや得意領域の掛け合わせを意識していました。

以前、「BizReach Campus Festival」というイベントのデザインを経験させていただいていたので、もう一度オフラインのイベントをデザインするのも何かの縁かなと思ったんです。

丹羽:
初回の提案を経て、2回目に提案してくれたのが、先ほどのコンセプトだったんです。

それが、私たちとしても、ビジネスコンセプトや構想していた世界観にとてもマッチしていて、「これしかない!」と思えました。なので、そこからロゴだけでなくイベント全体のクリエイティブもお願いしました。

プロジェクトが進むにつれて、お互いの理解も深まり、尊重し合いながら、職種をこえて、「Future of Work のチーム」として一緒に仕事ができているというのはすごく実感しました。

小笠原:
それぞれに得意な領域や分野がありつつ、Future of Work として大事にしたいものはブレなかった。皆がそれぞれにブランドを形づくり、守っていて、背中を預けあっていましたね。

―― 意見がぶつかったりしたことはなかったんですか?

田村:
正直、はじめはロゴだけの依頼と聞いて距離感をつかめずにいました。

でも、小笠原さんや丹羽さんも事業の成功を願っているし、私も成功を願っていて、同じ方向を向いている。それがわかったときに、一緒に働く隣の人のことを、自分が見られていない感覚が違和感なんだと気づいて、そこから徐々に息をそろえ始められた感覚があったんです。

丹羽:
田村さんが、自分の意見をストレートに伝えてくれている姿勢は私たちも嬉しかったです。イベント運営を仕事にしてきた経験上、遠慮して意見が言えない関係ではいいものが作れないこともわかるので。とにかく思っていることを言えて、お互いが同じものを描けるっていうのは何より大事だと思っています。

それに、本気で真剣じゃなかったら、もっと事業に深く関わりたいなんて意見、出てこないですよね。

イベント初日。オープニング映像を見守る田村。

田村:
相手の言っていることを受け止めて理解する姿勢と、そのあとにデザイナーとして課題解決の方法をどうやって提案できるか。いろんなレイヤーでオプションを出すっていうことはこのプロジェクトを通じて意識できるようになった点だと思います。

嫌いだから、とかじゃなくて同じゴールを目指しているから、意図して意見をぶつけ合う。あとは、お互いにどこまで譲って尊重しあえるか。

はじめに感じていた、距離がつかめない違和感というか、ある種の請負感みたいなものがなくなったのは、プロジェクトを通じてそういうことに気づかせてもらったからだと思います。

丹羽:
彼女の変化や成長を近くで見ているのも嬉しかったし、私もそれに応えなきゃ、もっと一緒にやりたい、と思ったりして。最後まで一緒に走り切りたいっていう気持ちが強くあったので、当日を迎えられたのは、私も本当に嬉しかったですね。

想いをカタチにするデザイナー

―― 田村さんは、新卒で入社して3年目ですよね?今後のデザイナーとしての展望はありますか?

田村:
いろんなイベントのデザインを経験させてもらって、「デザイナー × イベント」っていう分野もいいなと思っていたんですけど、私はイベントが作りたいんじゃなくて、小笠原さんや丹羽さんのように想いをもっている人の想いをカタチにすることがデザイナーの、デザイナーだからこそできる仕事なんだなと感じました。

イベントというのはひとつの表現手段であって、想いをブランドとしてかたちづくっていくことに価値がある。それはいま、とても楽しんでできているので、極めていきたいです。

小笠原:
事業会社だから、今後、このクリエイティブを継続して改善するっていう楽しみもまだまだありますよね。

田村:
デザイナー1年目は、仕事は普通に楽しいけど、何が楽しいかって答えられなかった。でも、少しずつ、イベントって楽しいかもとか、ブランドづくりって面白いかもとか、気づかせてもらって。

また、そんな風に変わっていくかも知れないですけど、今は、Future of Work っていうブランドを大きく育てていきたいなと思っています。

丹羽:
そんな風に、愛着をもってくれて私たちも嬉しいです。

―― 素敵な決意ですね。今日は、ありがとうございました!

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