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デザインと経営と組織の幸せな関係。「デザイン経営カイギ —— 誰のためのデザイン経営?」座談会レポート

経産省と特許庁から「『デザイン経営』宣言」という文書が今年5月に発表されました。さまざまな社会変化を背景に、「デザイン」をより企業経営に活用していく意義や指針がまとめられています。この発表の前から「デザイン経営」的な取り組みをしていた企業もあれば、この文書をきっかけに議論や実践を始めた方もいらっしゃるでしょう。

そんななか、7月某日。「デザイン経営」に挑戦している企業が集まるイベントにビズリーチのデザイン組織が参加させていただきました。主催は、先日「Cocoda!」をリリースした alma さんと、「Green」などを運営するアトラエさん。
各社、デザイン組織を牽引する組織長やマネージャーが参加し、自社の取り組みの紹介や、全員参加のディスカッションを通じて、情報交換をしたり、考えを深めたりしました。

イベントは招待制だったのですが、ディスカッションの様子を、公開できる範囲で、まとめてお届けすることにしました。

私たちビズリーチのデザイン組織でも、まだまだ挑戦をはじめたばかりで、試行錯誤の連続です。間違っていることやうまくいかないことも、ときにはあるかと思います。しかし、議論や情報をクローズドにせず、試行錯誤の過程を可能な限り共有していくことが、私たちだけでなく、読んでくださる方にとっても、より良い挑戦につながると信じ、公開させていただくことにしました。

私たち自身も、このイベントに参加させていただき、気づいたことや学びになったことがありました。お読みいただいているみなさまがデザイン経営を実践する際に、少しでもお役に立てれば幸いです。そして、またいつか、みなさまとディスカッションさせていただく機会を設けられればと考えています。

主な参加者紹介

このイベントでは、冒頭に下記5名の方から各社の取り組みについて LT がありました。

  • alma 齋藤 孝俊さま(モデレーター)
  • 株式会社アトラエ 岡 利幸さま
  • 弁護士ドットコム株式会社 金子 剛さま
  • UIUX/Org Designer 竹田 哲也さま
  • 株式会社ビズリーチ 田中 裕一

また、その後の座談会では、全部で15社ほどの企業からデザイナーが参加し、全員参加で議論を深めました。
今回は、この座談会の模様を一部お届けします。

デザインの経済効果は測れるのか。

alma 齋藤:
今日は、デザイン組織のマネージャーの方も多く来ていただいていると思います。

先ほど、LTをしていただきましたが、「そうは言っても実践は難しいですよね」とか、「そもそもどういう背景で各社実践しているのか」とか。おそらく、そういう生々しい話をした方が、明日以降のデザイン経営に活かせるんじゃないかと思っていて。

なのでここからは、発表を聞いて純粋に気になったことを、ざっくばらんに話し合えればと思います。

どなたか、いかがでしょうか。

ディスカッションは、参加企業のメンバーが円になって全員参加で行われました

アトラエ 岡:
ビズリーチさんにうかがいたいんですけど。

昨年、デザインにものすごく投資をするという意思決定をされていたじゃないですか。ひとすじ縄にいったわけではないと思うんですけど、もっとも議論が難しかったテーマは何でしたか?

ビズリーチ 田中:
難しいですね、なんというか‥‥。

実は、ボードメンバーのなかにはデザイン経営のようなものにチャレンジしたいというニーズはもともとあったんですね。なので、ボードメンバーとのコミュニケーションは、比較的スムーズにいった感じがありました。今もデザインの役割については、認識をすり合わせながら進めていますが。

岡:
なるほど。

田中:
最近、問われ始めていて、現場でも話しているのはデザインの経済効果についてなんですけど。

今後、デザイン経営を、プロダクトデザインやコミュニケーションデザインを通じて実行して成果を出すプロセスを描く、というところはこれからすごく苦労するだろうと思いますし、たくさんの壁が見えているところではありますね。

岡:
へええ。

齋藤:
いまお話されていたデザインの経済効果っていうことなんですけど、途中経過とかあれば聞きたいです。

田中:
これ実は、現場で話していたのが昨日のことなんですよ。

会場:
(笑)

会場では登壇者以外からも質問や事例の共有が行われていました

齋藤:
スタートラインですね。

田中:
そうなんですよ。すぐに答えは出ないですし、まだ思考が深く及んでいないんですけど。

齋藤:
「『デザイン経営』宣言」でいうと、7番の項目ですね。
これは最難関っていう感じもするのですが、どなたか言及できる方いますか?KPI や OKR を各社どう管理しているか、というのも気になるんですが。

「デザイン経営のための具体的取組」
⑦ デザインの結果指標・プロセス指標の設計を工夫
指標作成の難しいデザインについても、観察可能で長期的な企業価値を向上させるための指標策定を試みる。
「デザイン経営」宣言 7.「デザイン経営」の実践 より引用

ビズリーチ 景山:
あ、ビズリーチでデザイン組織のマネージャーをしてる景山です。
これ、「工夫」って書いてあるんですけど、いま僕も、どう工夫できるかを日々考えていて。

岡:
難しいですよね。意図があってデザインをして、意図通りに動いているのかチェックするわけで。既存の指標を使うか、新しい指標を作るのかみたいなアプローチ手法の議論もありますよね。

景山:
あのー、僕も自力で「アッ!」って気づいたわけではなくて、いろんな会社の方から知見をいただきながら考えているところなんですけど。

例えば、デザインを、ユーザーに対していいことができるものだと仮定したときに、良いデザインができたとして、じゃあ売り上げって下がるんだっけ?ということは、大前提としてあるかなと思っていて。これが直結すれば一番わかりやすい指標にできると思うんです。

でも反対に、デザインをすることと、売上をあげることって直接的に必ずしもリンクするんだっけっていう話もあるじゃないですか。

岡:
そうですね。短期長期含めて、一回へこむのか、そのままになるのか、みたいなのは議論のポイントですよね。

景山:
そう。それで、NPS とか、LTV とかそういう指標も、もちろん支えにはなると思うんですけど、そこに短絡的にいってもいいんでしたっけっていうのは僕ら自身が常に問いとして持つべきかなとは思います。

前提として、デザインとその経済効果を短絡的に結びつけなくてもいいのかもしれない、というのはひとつの考え方としてあるかなというか。もちろん、売上や事業成長に貢献しないと、経営としては評価されないんですけどね。

岡:
短絡的に見てもいいんでしたっけ、っていうことを論理的に諭す言葉ってあるんですか?

景山:
まだもてていないですね。難しいところだと思っています。

未来を創るひと、組織を守るひと。デザインをするひと。

齋藤:
7番以外のお話も聞いてみたいんですが、いかがでしょうか。質問でもいいですし。

弁護士ドットコム 金子:
組織についてちょっと聞きたいんですけど。資料でいうと3に当たると思うんですが。

個人的には、会社や事業のミッション・ビジョンにコミットしていくほど、職種って融けあっていく気がしているんです。デザインは成果を出すためのひとつの手法に過ぎないというか。それで、デザイナーの横断組織がある会社さんで、どういう風に、ミッションと職能組織のバランスをとっているのかっていうことを聞いてみたいです。

「デザイン経営のための具体的取組」
③ 「デザイン経営」の推進組織の設置
組織図の重要な位置にデザイン部門を位置付け、社内横断でデザインを実施する。
「デザイン経営」宣言 7.「デザイン経営」の実践 より引用

竹田:
個人的な考えとしては、プロダクトだったりサービスに対して、チームとして結果を出せたかっていうことが大事だと思っていて。チームの中で、コードを書いて機能を作れるとか、グラフィックや UI を作れるとか、各々の役割がある。なので、チームとして評価をしていくっていうのが僕はいいんじゃないかなと思ってます。

齋藤:
職能っていう文脈でいうと、アトラエのやり方は面白いなと思ったんですが。

岡:
そうですね。僕が CTO を引き受けるときに感じていたのはガバナンスについてですね。

基本的には、社員はみんな、ある程度自由に好き勝手やりたいはずだと思うんです。一方で、会社を存続させるためには、文字通り、それを取り締まる役が必要です。僕は、会社の未来は、社員みんなで作った方がいいと思っているんです。なので、経営陣に入らないと議論に参加できない組織というのは個人的にはあまり好きじゃなくて。

未来の議論をみんなで徹底的にしているときに、さすがにそれって遠心力利かせすぎじゃない?っていうときに回転の中心でバランスをとる。で、意外とイケるねとなったら、もっと回転速度をあげてもらう。取り締まる人というのは、こんな感じで、遠心力の真ん中にいるイメージです。

その部分に1番の責任を担うみたいな感じでやってますね。取締役だからって偉いわけじゃないし、経営のミーティングに普通に社員が入ることもある。未来を創る人と守る人、という役割分担ですね。それでなんとか、成り立ってる感じです。

齋藤:
なるほど‥‥。すごいですね、そのスタンスは。

「『デザイン経営』宣言」を軸に、ディスカッションが進みます

景山:
あの、僕は2番の“事業戦略・製品・サービス開発の最上流からデザインが参画”っていうのがいつも面白いなと思うんです。すごいいい言葉に聞こえるんですが、これを実践されててうまくいった例とかあれば聞いてみたいです。

「デザイン経営のための具体的取組」
② 事業戦略・製品・サービス開発の最上流からデザインが参画
デザイナーが最上流から計画に参加する。
「デザイン経営」宣言 7.「デザイン経営」の実践 より引用

齋藤:
各社でレベル感は違う気がしますね。やり方とかをシェアできるといいですね。

アトラエ 紺谷:
そういう文化を作っていくのが難しいんですかね。うちは、少ない人数でやっていてはじめからデザイナーが議論に参加する文化はあったっていう感じだったりはしますね。

齋藤:
デザインが参画って難しいですよね。経営者にデザインの知識があればそれでいい気もしますし。

岡:
デザイナーやエンジニアが事業戦略の上流に入ると、当然議論は長引くじゃないですか。ただ、決まった後のスピードがめちゃくちゃ早いのは実感します。なので、「手を止める勇気はもちなさい」という話はデザイナーやエンジニアによく言いますね。

はじめのタイミングで、ものすごい納得感を全員がもてたらバーっと走れば基本的には、根本の判断は間違わない。それは結構個人的には、実感しているかな。

アトラエ 岡さんは、LT でも組織に対する考え方をお話ししてくださいました

齋藤:
上流の思想の統一が大事、という話は先ほどの LT でも何度か出てきて、デザインとどんな関係があるんだろうと思っていたんですが、自己組織化されたチーム、自走できるチームになるというところを考えると、確かに価値がありますね。

岡:
はじめは、すごい大変なんですけどね。

竹田:
前にいたグッドパッチでは、「共通言語」ってよく言っていて。

チームのなかでエンジニアとデザイナーが会話するとか経営者とチームが会話するとか、ユーザーと作り手が会話するとか、そういうときにハブになる存在はすべて共通言語なんですね。プロトタイプもそうだし、ユーザーストーリーの漫画でも、なんでもいいんですけど。

岡さんのお話は、それを信じていけば進められて、ブレが少ないもの。そういう共通言語をいかに作れるかっていうことなのかなと思いました。

齋藤:
なるほど。そこから理解すると、金子さんのおしゃっていたミッションに対して、それを遂行する人が融けあえる仕事っていうのもできそうですね。

はい、それではお時間になってしまったので、一旦終わりにしたいと思います。発散した状態で終わってしまうのですが、また実践したことを話し合う機会をもてればと思います。

ありがとうございました。

会場:
(拍手)

ディスカッション後は、懇親会も行われ活発に議論がされていました

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