
企業の進化に変化をもたらす「融ける“デザインのチカラ”」
“Design is too important to be left to designers.” —— デザインはデザイナーだけに任せるには重要すぎる 「口紅から機関車まで」さまざまなデザインを手がけたレイモンド・ […]
こんにちは、デザイナーの福山です。今回は、オフィスのデザインをする機会がありましたので、実際に私が取り組んだことと、得ることができた知見をご紹介します。少し長めですが、たくさんの写真を交えてご紹介しますので、最後までお付き合いください。
今回、対象としたフロアは、社名と同じサービスである「ビズリーチ事業部」のプロダクト開発部執務スペースです。
会社側からミッションとして与えられたのは「生産性が高く、クリエイティブなアイデアが生まれやすいオフィス」を作ることです。
プロダクト・サービス開発は、席での作業の他にも、会議室でのミーティング、ちょっと集まってアイデアを出し合うなど、さまざまなコミュニケーションが発生します。これらが促進されるようなレイアウトを目指しました。
まずは現状を分析しました。利用者がオフィスのどこを気に入っていて、どこを不満に感じているか、使っている機能、使ってない機能はどれか。自分自身も利用者であったため、仮説を立てながらリストアップしていきました。
これまでプロダクト開発部のメンバーは、ブーメラン状のデスクを使った「ハニカムレイアウト」という、ちょっと変わった形のオフィスで開発をしていました。6人一組を単位として、蜂の巣状に組み合わせたレイアウトです。
両隣の2人と斜め前の4人、さらに同じ円の中にいる5人は、座ったまま話しやすい距離になっていて、自分を中心に9人とは簡易的な会議もできました。同じ円の中に座ってる同士は画面も見せやすく、リードエンジニア1人が、5人のメンバーを手軽にレビューすることができました。
一方で、空間を贅沢に使うため人の密度が低く、相手によっては会うために長い距離を歩く必要がありました。通路も形状が特殊なため、直線距離は近くても、遠回りが必要な場合もありました。
そして二次的な課題として「オフィス全体が地下室のような空気になりがち」という現象が起きていました。皆の席があらゆる方向を向いていたため、朝昼夕方、誰かの画面へ映り込みが発生し、ブラインドを閉めてしまうのです。日が沈んだあと誰かがわざわざ開けようと思わなければ、翌朝の出勤時も全て閉まったままです。ブラインドが閉まったままの状態は、よく起こっていました。
オフィスからの景色が良くても、晴れでも雨でも、外の様子が分からない。自然光が入らない人工的なオフィスは、どんなに効率が良くとも、私には創造的な環境とは言えないものでした。
上記を踏まえて、無機質な空間にならないよう自然光を活かし、コミュニケーションもこれまで同様、活発に行われるようなオフィスを目指すことにしました。
業務中のコミュニケーションには種類があります。自席付近で済むものから、会議室が必須なものまで、さまざまです。状況に応じたスペースを用意することで、会議室の予約や移動にかかるコストを最小化したいと思いました。また、ビズリーチでは1on1と言われる上長との面談が日常的にあり、キャリアや業務の悩みなどを相談します。社員が増え続ける中でも、こういった多様なミーティングのニーズに応え続けたいと思いました。
ここからは実際のプロジェクトの手順に沿ってご説明します。総務チームのサポートを受けながら、外部のベンダーさんとイメージを具現化していきました。総務チームは、急拡大する組織の中で多くのオフィスデザインを担当してきたため、知見が豊富、アドバイスも的確で、プロジェクトマネジメントは一流だと、同僚ながら感じました。
自分の頭の中にあったことを簡単な資料にまとめ、社内から意見がもらえる状態にしました。
こちらの要望をまとめた資料を各社にお送りし、後日図面や3Dでのパースを見せてもらいながら、ベンダーさんのアイデアをプレゼンしていただきました。
細部を詰めていきながら、費用がかかりすぎる部分や、ビル側での制限など、当初想定しきれなかった問題はその都度、頭の中の全体イメージと照らし合わせ、やる・やらないの判断をしていきました。例えば、天井照明を全てダウンライトにする案が、見込める効果の割にビル側の仕様でコストが高くつくことが分かり、結局断念しました。
多くの制約の中で、何を切り捨て何を優先すべきか。判断材料となるのは、そもそもの目的である「社員(=ユーザー)の生産性をどのくらい向上させるのか」という点です。これにはES(従業員満足度)も含みます。
「自分がどう思うか」ではなく「ユーザーがどう感じるか」で考えるという点は、主観にならずに、客観的に体験をシミュレートするという、まさにUXデザインの手順と共通するものがありました。また、途中経過を周囲にこまめに共有し、意見を貰ったりもしました。これもまるでデザインプロトタイプを見せてフィードバックをもらう工程と同じです。
不慣れで苦労もありましたが、概ね満足できるオフィスが完成しました。写真とともに一部をご紹介します。
グリーンを多く配置し、第一印象で明るく刷新されたイメージに。
みんながブラインドを閉めたくなくなるように、一番工夫した所です。窓際には景色を見ながら作業したり、立ち話ができるカウンタースペースを設置しました。仕切りがあって集中できる席もあります。
さらに、窓からの映り込みによる眩しさを軽減するため、執務エリアとの境に衝立を設けました。裏側はホワイトボードとして使えます。
LTやプレゼンテーションに適したエリア。無線で画面を表示できるよう、Apple TVを導入しました。
ちょっと集まって話したいとき向けの、スタンディングでの打ち合わせスペース。目隠しのための幕を下ろすこともできます。
スタンディングだけど椅子もあります。これは完全に「座る」というより、寄っかかるのに適した形状を、総務チームにご提案いただきました。
1on1専用のエリアを4箇所用意しました。
密室タイプの会議室もあります。改修前の壁をそのまま利用しつつ、少しでも光を取り入れるために、仕切りをガラスに変えました。
全てが想定通りではないので、実際に使っている所を観察したり、要望をもらいながら、細かく修正していきました。
この新しい執務スペースを利用している社員に、実際に普段利用してみた感想を聞きました。
藤野翔太(エンジニアMGR)
新しいオフィスで僕が気に入っているのは、窓際にずらっと設置されたカウンターです。ちょっとした立ち話や、行き詰まったときの気分転換によく使っています。
あと、オフィスが明るいのが開放的で本当にいいですね。置いてある家具や緑色の絨毯もナチュラルなテイストで統一されているので、リラックスして仕事ができています。
田中雅和(プロダクトマネージャー)
自分は端の席にいるんですが、執務スペースと通路を分ける立板と人工観葉植物が気に入ってます。物理的には目立つ位置なのに、気持ち的には隠れている感覚があって、集中しやすい。他にも挙げればたくさんありますが、細かい設計が随所に効いていると感じます。
働く場所も自分たちで設計して作って、「働く」をもっと良くしよう、という会社の価値観が伝わってくるので、こういう取り組みは自慢できるものだと思いますし、実際自慢しています(笑)
鳥海健(プロダクト開発部長)
緑や木目調など、ナチュラルなデザインが気に入っています。以前の内装はどちらかというとモダン調で、それはそれでカッコよかったのですが、今の方が落ち着くというかなんか優しい気持ちになります。
ホワイトボードも数多く設置されており、活発なディスカッションが発生しやすく、その質も上がっていると思います。
一緒にオフィスデザインを進めてくれた、総務の菊地に話を聞きました。
ビズリーチでは、組織の拡大に伴ってオフィスを随時増床していく必要があります。これまでは役員の竹内からコンセプトをもらって、施工会社と詳細を詰めながら進めてきましたが、今回初めて福山さんとオフィスデザインを行いました。
まずは必要席数やスケジュールなど基本的な情報を共有し、総務側で用意したフォーマットを使って、どんなオフィスにしたいのかを話し合いました。この時点で福山さんの中に、ある程度明確なイメージが出来ていたようです。そこに総務側の要望を継ぎ足して固めていきました。
はじめから優先順位の決め方と取捨選択の基準がはっきりしていましたし、予算内での実現可能性を考慮して提案してくれるので、やりやすかったです。やはり事業会社の社員として、自分たちのお金を無駄なものに投資したくない、という思いは一緒で、そこが共通言語となって決めることが多かったように思います。予算や工期の最終的な調整は総務側が受け持ち、やりくりしていきました。
プロダクトデザインと空間デザインで共通すること、異なることを通じて、さまざまなことを学ぶことができました。
共通するのは、目的を定義、課題をリストアップし、完成後もユーザーの行動を観察し、成功に導くというデザイン思考です。これを利用者と会社、双方の視点で行いました。一方マテリアルの理解が足りず、コストや実現可能性との整合が難しかったです。また、オフィスはさまざまな顔を持っているので、デザインの違いによる影響範囲は、とても大きいとも思いました。たとえば外部の方が見た時に与える印象と、社員が日々感じることは違うと思いますから。
今後も、機会があればオフィスのデザインを是非やりたいと思っています。サービスデザインとは違い、間接的に「そこで働く人間」の満足度や生産性を考えながら、その向こうにいるユーザーに想いを届けるような感覚と、自分たちで会社を、組織を創っていくような感覚が両方あって、僕としてはとても大きな経験をさせてもらいました。