
事業を前に進めるための、具現化のチカラ
この記事は、2023年5月10日に「Assured Tech Blog」にて公開された記事の転載です。 こんにちは、Assured 事業部デザイナーの戸谷です。 事業推進において、プロダクト開発の次の一手をどうするか?を […]
こんにちは。求人検索エンジン「スタンバイ」のアプリデザインを担当している戸谷です。
今回は、「事業に活かせるUXデザイン実践」という記事シリーズの第3回をお届けします。
「事業に活かせるUXデザイン実践」シリーズでは、日本最大級の求人検索エンジン「スタンバイ」のアプリチームで取り組んでいる、UX デザインを事業成長に活用する試みについて、実際の例を交えながらお届けしています。
前回までの記事では「リサーチ編」「ToBe 編」として、UX デザインの手法を導入するに至った経緯と、KA 法を使った体験価値のマッピング手法、リサーチをもとに UX コンセプトやユーザーストーリーを考えるプロセスについてお伝えしました。
今回の記事では「検証編」として、「理想のプロダクト」として考えたアイデアやコンセプトが、どれくらい確実そうな仮説かを検証していきます。
前回までの記事と重複しますが、今回の取り組みの全体像を、改めてご紹介します。
前回までは、体験価値のリサーチ(1〜3)と、UX コンセプトのまとめ、それを反映したストーリーの視覚化(4, 5)をおこなってきました。今回は、「6. 評価」として、前回考えた「UX コンセプト」や「ToBe のアイデア」がどれくらい確実そうな仮説かを、定性調査・定量調査の両面から探っていきます。
これまでのアイデアは、当初のヒアリング調査から地続きとなっていて、ユーザーの声を出発点にして考えるように気をつけてきました。しかし、体験価値に見落としがあったり、まとめた段階でズレてしまっている恐れもゼロではありません。そこで今回は、具体的に下記の2つのステップで調査を行うことにしました。
実装に入る前に、このステップで改めて検証をすることで、見当違いなアイデアにコストを掛けることを防ぎ、これまで積み上げてきた UX デザインの効果を最大化しましょう。
(価値マップのかたちにまとめた体験価値の一部。詳細は「リサーチ編」を参照)
前回、UX コンセプトを考える際に、「価値マップ」にまとめた「体験価値」をもとにしてそれぞれのアイデアを広げていきました。チームメンバーにも参加してもらい、複数の視点を取り入れることで、様々な仮説の可能性を考慮できるように気をつけてきました。
しかし、開発している私たちはプロダクトのことを知りすぎています。そのため、本当にユーザーが価値を感じることや、ニーズ・ペインを感じることとズレが生じてしまう恐れはゼロとは言えません。
(体験価値から発想したコンセプトアイデアの例。詳細は「ToBe 編」を参照)
そこで今回、体験価値をより広く知り、UX コンセプトに更に磨きをかけるために、実際にスタンバイを利用してくれているユーザーの方へインタビューを行うことにしました。
つまり、「既存ユーザーが、日々の生活や仕事探しという行為をどのように営んでいて、どんなニーズやペイン、体験価値を感じ、なぜスタンバイを使ってくれているのか」をインタビュー調査することで、私たちがまとめてきた体験価値や価値マップに、ズレやモレがないかを確かめようというわけです。
万が一、見落としがあればここで気づけますし、同じような体験価値をヒアリングしたとしても、そこから発想した UX コンセプトに磨きをかけることができます。
インタビュー対象者の募集はアプリのお知らせ欄を通じて行いました。スタンバイアプリは Firebase の技術を活用し、お知らせの更新やプッシュ通知を手軽にできるように作られています。結果として、100 名を超える応募のなかから、特にスタンバイをご活用いただいている 8 名にご協力いただき、実際にお話を伺うことができました。
(お知らせの画面。お知らせの更新やプッシュ通知には、Firebase を利用している)
インタビューの人数が多ければ、それだけ確度の高いデータが集まりますが、スケジュールや手間を考え、この人数に落ち着きました。また、対象者は一番はじめのヒアリング調査で多くお話を聞けなかった主婦の方を中心に選出し、より見落としが減るようにしました。
インタビューでは、下記のことを中心にお話を伺いました。
筆者はユーザーインタビュー初挑戦でしたので、はじめの数回は、インタビュー経験者の社員に同席してもらいながら、話の引き出し方や、終了後のまとめ方などを勉強していきました。インタビュー対象者に会話の主導権を持ってもらい、とにかく話を引き出していくことが重要になるわけですが、このあたりのコミュニケーションは大変難しいと感じました。
特に、筆者が一番苦労したのは、来ていただいた方にいかに気持ちよく、正直に話してもらうか、という点です。基本的には、適切なあいづちやオウム返しなどを返しながら、相手が自然と話を深掘りしてくれるよう、聞き役に徹することが大切です。
しかし、頭ではわかっていながら、特にはじめの方では、話されていることをまとめて結論づけたり、沈黙ができると間を埋めるように自分から話してしまいました。この辺りは、同席してくれたインタビュー経験者の社員に軌道修正してもらったり、各回おわってすぐに振り返りを行うことで、徐々に解消していきました。インタビューの様子は動画で収録し、ニュアンスなどをあとで見返せるようにしてまとめの際に役立てました。インタビューをする際、特に記録を残す場合は、きちんと同意を得るように気をつけましょう。
(カメラは小型で広角なものを使った。圧迫感が少なく、狭い室内でも問題なく撮影できる)
ちなみに、実践形式での勉強のほか、こちらの書籍がインタビューのコツや事前準備、事後のまとめをする際の参考になりました。
お話を伺うなかで、例えば「子供がいる主婦の方」など、共通のペルソナに当てはまるような方であったとしても、それぞれにニーズやペイン、それにひもづく体験価値が微妙に異なり、スタンバイを利用している理由も様々である、ということがわかりました。
こうして書くと、「何もわからないことがわかった」という結論のようにも聞こえますが、伺ったことをまとめていくと、多様化するニーズの根源には共通点があることもわかってきました。結果として、インタビューによって、私たちが考えていた UX コンセプトの仮説の方向性が間違っていなかったことが確かめられ、磨きあげるためのヒントにもなりました。今回の調査のおかげで、UX コンセプトをより適切な言葉に落とし込めたように思います。
次に、定性調査を経てブラッシュアップした UX コンセプトが、今回インタビューをした方以外にも当てはまるものかどうかを確かめました。今回は、複数の UX コンセプトをマーケティングメッセージに落とし込み、オンライン広告での効果測定を用いて検証を行いました。
具体的には、Facebook 広告の広告セットを用いて、同一のセグメントに対して複数パターンのメッセージングを打ち出し、クリック率やインストール率、インストール後の LTV などで比較を行いました。
(実際の広告の一例)
一般にこうしたコンセプトテストは、あるコンセプトの商品に、実際のユーザーのニーズがあるかを確かめるために、利用イメージや特徴をまとめた資料を複数案用意して行われます。専門の会社に依頼し、より大規模に精度の高い調査を行う方法も検討しましたが、予算やスピード感、サービスに与える効果との費用対効果などを種々考慮して、今回のかたちに落ち着きました。
コンセプトの確からしさが、定性面・定量面である程度確かめられたところで、実装の計画に移ります。ブラッシュアップし、定量調査で最も結果のよかった UX コンセプトをベースに、改めて、ユーザーストーリーのまとめや MVP(Minimum Valuable Product)のプロトタイピングを行いました。ここでさらに、「UI の検証」を行ってもよいのですが、今回は実際にプロダクトに反映をして、検証・改善していく方法を選択しました。このあたりの方法論については、色々な見解があると思いますが、検証の目的、UX デザインのゴールさえ見失わなければ、事業のフェーズやチームのサイズなどに応じて、最適な判断をしていってよいと考えています。
「リサーチ編」でも述べたように、今回は UX デザインを「サービスが提供する体験価値を明確にするための設計手法」と考えて活用しています。調査を通じてゼロベースで考えてきた UX コンセプトと、既存ユーザーの体験価値や機能アセットとの間に、乖離が少なく、現状の UI 設計やメッセージングを「整理」することで、より低コストで目的が達成されると判断をしたため、ユーザビリティテストなど UI の検証は、リリース後の反応として観測することが最もスピード感があり効果的だと判断した次第です。
というわけで、次回は「プロトタイピング編」として、今回までに作成したコンセプトやストーリーをもとにプロダクトに反映していくプロセスをお届けします。